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読み物2026年7月26日

経理が一人しかいない会社の「触れる範囲」——疑うためではなく、担当者を守るために線を引く

私たちは、土木・建築・設備の3業種、約110名の建設会社を経営しています。建設業は20年以上やってきて、この半年ほどは、社内で使うAIツールを自分たちで作りながら回しています。

今日は、あまり表で語られない話を書きます。

中小の建設会社だと、経理が一人、ということがよくあります。うちもグループの会社によってはそうです。請求も、支払いも、経費のとりまとめも、銀行とのやりとりも、その人が全部見ている。

これ自体は、悪いことではありません。むしろ、その一人がいるから会社が回っています。ただ、仕組みを作る側から見ると、少し気になることがありました。

「その人しか分からない」と「その人しか止められない」は別の話です

一人で回っているとき、二つのことが同時に起きています。

ひとつは、その人しか分からない状態です。どの現場の請求がいつ立つのか、どの支払いが月末に寄るのか。これは経験の蓄積なので、簡単には他の人に移せません。

もうひとつが、その人が全部を触れる状態です。数字を入れることも、直すことも、消すことも、一人でできてしまう。

前者は、時間をかけて引き継ぐしかありません。でも後者は、仕組みの側で線を引ける話です。私たちは、後者から手をつけました。

 

画面から隠すだけでは表のボタンが無いだけで裏側の入口は開いたまま、サーバー側で止めればそもそもできない、という二つの設定の違いを並べた図解

画面で隠すのと、裏側で止めるのは違いました

自社の経費や資金繰りのアプリを作っているとき、恥ずかしい思い違いをしていました。

権限を分けるとき、最初は「見せない」で済ませていたんです。担当者の画面には、銀行の残高や借入の情報を出さない。編集のボタンも出さない。画面に無ければ触れないだろう、と考えていました。

ところが、点検してみると、画面に出していないだけで、裏側の入口は開いたままでした。表のボタンが無いだけで、直接その入口を叩けば数字を書き換えられてしまう。

もちろん、社員がそんなことをするとは思っていません。でも、「やろうと思えばできる」状態と「そもそもできない」状態は、まったく別のものです。アプリの鍵の穴を見つけた時と同じで、見つけた以上は塞ぐしかありません。

なので、画面から隠すのではなく、裏側のサーバー側で止める形に直しました。銀行の残高、口座、借入といったお金に直結する情報は、権限のない人からは書き換えられない。経費も、申請した本人以外のデータには手を入れられない。表示の話ではなく、動作として止めています。

線を引くのは、疑うためではありません

ここが一番書きたかったところです。

権限を絞ると聞くと、「社員を信用していないみたいで嫌だ」と感じる社長がいます。気持ちはとても分かります。私も最初はそうでした。

でも、実際にやってみて思ったのは、逆だということです。

一人に全部が集中していると、何かあったときに、その人が真っ先に疑われます。数字が合わない、記憶にない支払いがある——原因が単純な入力ミスでも、触れたのがその人しかいなければ、まず本人に確認が行きます。これは、真面目にやっている人ほどしんどい話です。

線が引かれていれば、「この数字はそもそも経理では触れない」とすぐに分かります。疑いが向く前に、可能性が消える。これは担当者を守る仕組みなんですよね。

現場でも同じことをしています。重要な作業は一人でやらせない。確認を二人で回す。あれは、作業員を疑っているからではありません。一人に背負わせないためです。事務の数字も、考え方は同じでいいはずです。

 

事務机の上に、単価や数量や発送日の欄がある日本語の帳票が数十枚積み重なっている写真。手前に電話機と封筒の箱が置かれている

会社が複数あると、もう一段ややこしくなります

建設業だと、土木と建築と設備で会社が分かれていたり、グループで数社を持っていたりすることがよくあります。うちもそうです。

この形になると、権限の話に「どの会社の分か」が加わります。同じ経理担当が複数社を見ているとき、画面の上では会社を切り替えながら仕事をすることになります。

うちのアプリで、実際にこんな不具合が出ました。会社を切り替えたのに、前の会社の画面のままになっていたんです。領収書のアップロードや、経費の編集の画面で起きていました。

幸い、他社の数字が見えてしまうような話ではなく、切り替えたはずの画面が追いついていないというものでしたが、ヒヤッとしました。経理からすると、A社のつもりでB社の画面を触りかねないわけです。数字そのものより、こういう「今どこにいるか分からない」状態の方が事故を呼びます。

3か所で同じ型の不具合が出ていたので、まとめて直しました。あわせて、今どの会社を見ているのかが常に画面に出るようにしています。

会社が複数ある場合は、「誰が触れるか」に加えて「今どの会社を触っているか」が分かる状態かどうかも、あわせて見てみてください。

今日からできる棚卸し

難しい道具は要りません。紙とペンで、次の3つを確かめるだけでも見えてきます。

一つめ。銀行の残高や借入の情報を、誰が書き換えられるか。 見られる人ではなく、直せる人を数えてください。ここは会社の中で一番少なくていい場所です。

二つめ。辞めた人のアカウントが、まだ生きていないか。 退職の手続きに「アカウントを止める」が入っていない会社は、意外と多いです。これは疑いの話ではなく、単なる後片付けの漏れです。

三つめ。数字を直した記録が残るか。 誰がいつ何を直したかが後から追えるだけで、ずいぶん違います。追えるということは、間違いが起きたときに原因までたどり着けるということです。

このうち一つでも「分からない」があれば、そこが最初に手をつける場所です。

 

棚卸しの三つを並べた図解。①銀行の残高や借入を書き換えられる人を「見られる人」ではなく「直せる人」で数える ②辞めた人のアカウントが生きていないか ③数字を直した記録が残るか

ツールを選ぶときにも効きます

自分たちでアプリを作らない会社にも関係のある話です。

勤怠でも経費でも会計でも、外のサービスを選ぶときに、機能の一覧はみんな見ます。でも、道具の使い分けを考える段階で、こう聞いてみてください。

権限は、役職ごとに分けられますか。

見せない設定と、触らせない設定は、別々にできますか。

誰がいつ直したかの記録は残りますか。

この3つにすっと答えられる相手なら、中の作りもある程度しっかりしている可能性が高いです。経費精算のような毎日使う仕組みほど、ここが効いてきます。

ツールを選ぶときに聞く三つ、の図解。自分たちでアプリを作らない会社にも関係のある話。機能の一覧はみんな見るが、そのうえで①権限は役職ごとに分けられますか ②見せない設定と触らせない設定は別々にできますか ③誰がいつ直したかの記録は残りますか、と聞く。この3つにすっと答えられる相手なら、中の作りもある程度しっかりしている可能性が高い

よくある質問

Q. 経理が一人だと、そもそも権限を分けようがないのでは?

A. 完全な分担は難しいですが、「入力する人」と「最終的に承認する人」を分けるだけでも意味があります。社長が承認だけを持つ形なら、人を増やさずに線が引けます。

Q. 権限を細かくすると、かえって仕事が止まりませんか?

A. 止まります。全部を細かくすると、承認待ちで動けなくなります。私たちは、お金に直結する重い部分だけを絞って、日々の入力は軽いままにしました。全部を締めるのではなく、重い場所を選ぶのが大事だと思っています。

Q. 社員に説明するとき、どう伝えればいいですか?

A. 「守るための線引き」だと正直に伝えるのが一番だと思います。何かあったときに担当者が疑われないためだ、と説明すると、うちでは納得されました。隠して導入すると、かえって不信感が残ります。

このテーマの記事はまとめ:建設業の経費精算・資金繰り・経営の数字に読む順番で並べています。

このテーマの記事はまとめ:建設会社のAIとセキュリティに読む順番で並べています。


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AUTHOR

ケンセツベース(ARCFEELGROUP株式会社)

土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)が、自社でのAIツール8本の内製を主導しました。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。

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