2026年7月16日
建設会社が使うAIは3種類——「ChatGPT・既製ツール・自社製」をどう使い分けるか
「AIを入れたいんだけど、結局どれを使えばいいの?」
経営者の集まりで、この質問を本当によく受けます。ChatGPTの話をする人もいれば、展示会で見た建設向けのAIツールの話をする人もいて、うちみたいに自社で作っている会社の話も聞く。全部「AI」と呼ばれているので、話が噛み合わないまま終わる。
私たちは建設業で20年以上、土木・建築・設備の3業種・約110名の会社を経営しながら、この1年で8本のAIツールを自社向けに作ってきました。
その経験から言えるのは、世の中で「AI導入」と呼ばれているものは3種類あって、得意なこと・値段・失敗のしかたが全部ちがうということです。この3つを区別するだけで、道具選びの迷いはかなり消える気がしています。
3種類の正体
① 汎用AI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)
なんでも相談できる、月数千円の「賢い相棒」です。文章を直す、議事録を要約する、就業規則の下書きを作る、専門用語を調べる。「その場かぎりの知的作業」が得意です。
逆に、毎日同じ形式で繰り返す業務(日報集計・請求書発行)を任せるには、毎回人が指示を打つ必要があり、続きません。
② 既製のAIツール(業務特化のSaaS)
日報アプリ、図面管理、工程管理など、「多くの会社に共通する業務」を月額で借りる道具です。導入が速く、サポートも付く。
弱点は、自社の独自ルール——うちの単価表、うちの帳票、うちの承認フロー——に合わせきれないことと、社員数×月額の費用が人数分ずっと続くことです。
③ 自社製AI(内製・オーダーメイド開発)
自社の業務の形そのままに作る道具です。私たちの8本はこれで、たとえば請求書は自社の帳票そのままに出ます。「自社にしかない型」をそのまま仕組みにできるのが強みです。
かわりに、作る手間と、直し続ける覚悟が要ります。完成した日がゴールではなく、運用の始まりです。
選び方は2つの軸で決まる
どれを使うべきかは、業務を2つの軸に当てはめると、ほぼ機械的に決まります。
軸1: その業務は繰り返すか?(毎日・毎月発生するか、その場かぎりか)
軸2: その業務は自社独自か?(どこの会社でも同じか、うちの型があるか)
- 繰り返さない × 独自でない → ①汎用AI。文章・調べ物・相談ごとは月数千円で十分です(経営で効く場面はChatGPTが効く5つの場面に書きました)
- 繰り返す × 独自でない → ②既製ツール。勤怠や会計のように「どの会社もほぼ同じ」業務は、借りるのが一番安くて速い
- 繰り返す × 独自 → ③自社製(または既製+カスタマイズ)。単価の決め方、帳票の形、現場との連絡の流れ。ここが会社の競争力そのものなら、道具を業務に合わせる価値があります
- 繰り返さない × 独自 → まず①に自社の型を教えて凌ぐ。頻度が上がってきたら③に昇格させる
失敗の多くは、この座標の取り違えで起きている気がします。その場かぎりの仕事に高い既製ツールを契約する。毎日の基幹業務をChatGPTの手作業で回そうとする。どの会社でも同じ業務をわざわざ内製する。道具が悪いのではなく、置き場所が合っていないだけ、ということが多いです。
もう一つ付け加えると、座標は動きます。最初はChatGPTでたまに作っていた書類が、いつの間にか毎週の定例業務になっていたら、①から③へ「昇格」させる合図です。うちの8本も、多くは「汎用AIで手作業していて、面倒になったから仕組みにした」という順番で生まれています。
逆に、使わなくなった既製ツールを惰性で契約し続けているなら「降格」の判断も要ります。年に一度、道具の棚卸しをおすすめします。
私たちの実際の使い分け
理屈だけでは伝わらないので、うちの現物を挙げます。
- ①汎用AI: 経営の壁打ち、文書の下書き、契約書の論点洗い出し。社員も現場用語をAIに教えながら使っています(そのコツは「出面」をAIに教える方法に書きました)
- ②既製ツール: 会計・給与・グループウェアなど「うちらしさが要らない」領域は既製で借りています。ここを内製する理由はありません
- ③自社製: 日報・請求・経費・工程・積算など8本。どれも「うちの型が濃い」業務です。日報一つとっても、雨天時の扱い、半休の数え方、請求への流れ方は会社ごとにちがう。だからここは作りました
大事なのは、3種類は競合ではなく分担だということです。「ChatGPTか、ツールか、内製か」という三択の議論は、そもそも問いの立て方が違う気がしています。正しい問いは「この業務は、どの座標にあるか」です。
買う前のチェック3つ
3種類のどれを選ぶにしても、契約や着手の前に、この3つだけ確かめてみてください。
**1. その業務の「現在のコスト」を数字で言えるか。**月に何時間かかっていて、時給換算でいくらか。これが言えないと、道具の値段が高いか安いか判断できません(計算のやり方は電卓ひとつで確かめる方法に書きました)。
**2. 毎日それを使う人の顔が浮かぶか。**道具は導入した人ではなく、現場で毎日使う人が定着させます。使う人が「楽になる」と感じない道具は、放置されがちです(この構造は社員がAIを使わない本当の理由に書きました)。
**3. やめられるか。**既製ツールなら解約条件とデータの持ち出し。内製なら作った人がいなくなったときの引き継ぎ。入口より出口の設計が、あとで効きます。
よくあるご質問
Q. 小さい会社でも内製なんてできるのですか?
A. 一年前なら「難しい」と答えていました。いまは生成AIが開発そのものを手伝ってくれるので、ハードルは大きく下がっています。ただし順番があって、いきなり内製ではなく、①汎用AIで社内にAIに慣れた人を作ってから、が現実的だと思います。
Q. 3種類全部やる予算はありません。どれか1つなら?
A. ①汎用AIです。月数千円で全職種に効き、②や③を選ぶ目も養われます。1つの業務で構いません。何から始めるかの記事に書いたとおり、「紙の数字を一つ、データにする」からで十分です。
Q. 展示会で見たツールが良さそうでした。決め手は?
A. デモの見栄えではなく、さっきの2軸だと思います。その業務は繰り返しますか? 御社独自のやり方が濃い業務ですか? 独自性が濃いのに既製ツールを入れると、「ツールに合わせて業務を変える」二重の苦労が始まります。
AIの道具選びは、車選びに似ています。軽トラとダンプとレンタカーのどれが正解かは、運ぶ荷物で決まる。
まず自社の業務を「繰り返すか・独自か」で仕分けてみる。道具のカタログを開くのは、その後で十分だと思っています。
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ARCFEELGROUP株式会社
ARCFEELGROUP株式会社。土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)で、 建設業のIT/DXとAI活用ツールの内製を担っています。評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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