2026年7月15日
ChatGPTが「出面」を理解しない——建設業の用語をAIに教える、地味だけど効く方法
ChatGPTに建設業の指示をそのまま投げると、まず言葉が通じませんでした。
「出面(でづら)を集計して」
「常用でお願い」
「歩掛(ぶがかり)で見積もって」
私たちにはいつもの言葉です。
でもChatGPTは、別の仕事の言葉として受け取ってしまいます。
私たちは、土木・建築・設備の3業種、約110名の会社で、建設業を20年以上やってきました。
その中で、ITを使った仕事の見直しも自社で進め、8本のAIツールを内製・運用してきました。
それでも、AIを使い始めて最初につまずいたのは、機能でも料金でもありませんでした。
AIは賢いのに、うちの言葉を知らない。
ここだったんですよね。
今日は、その対処法について書きます。
ずいぶん地味な話です。
ただ、うちではここを直したときが、いちばん早く変わりました。
なぜChatGPTは建設用語で「ズレる」のか
ChatGPTは、世の中にある大量の文章をもとに答えます。
そのため、ネット上に文章が少ない言葉は、やはり苦手です。
建設の現場言葉は、まさにそうでした。
しかも、普段の言葉と同じ字を使うものが多い。
これが、なかなかやっかいです。
実際に、私たちの現場ではこんなズレが起きました。
- 「出面」を「顔を出すこと」と解釈する。「今月の出面を集計して」と頼んだところ、会議への出席回数のような整理が返ってきました
- **「常用」を「日常的に使う」と読む。**常用契約の人工について聞いているのに、「常用漢字」に近い話で答えが返ってきました
- **「手元」を工具や「手の近く」と受け取る。**手元さん、つまり職人さんを補助する作業員の人数を聞いているのに、まったく話が通じませんでした
変な答えが返ってくると、うちでも最初は「やっぱりAIはまだ使えないな」となりました。
ただ、よく見ると、AIが計算や整理を間違えているわけではありません。
その手前で、言葉の意味がズレていました。
最初に言葉の意味を合わせていなかった。
数字を数える前から、話が食い違っていたんですね。
土台がズレたまま便利な機能を足しても、なかなかうまくいきません。
これは、私たちがこれまで何度も経験してきたことと同じでした。
一番効くのは「用語集を先に渡す」こと
そこで、うちで先にやったのが、指示文の冒頭に、自社で使う言葉の意味を並べて渡すことでした。
たとえば、こう書きます。
以下の用語で会話します。
・出面(でづら)=職人が現場に出た日数・人数のこと
・常用=日当で人を出す契約形態
・歩掛(ぶがかり)=作業1単位あたりに必要な人工や時間
・手元=職人を補助する作業員
・人工(にんく)=作業員1人×1日分の労働量
たった数行です。
でも、これを先に渡すだけで、返ってくる答えがはっきり変わりました。
うちで外さないようにしたのは、2つです。
まず、「読み方」と「自社での意味」をセットで書くこと。
「出面」だけでなく、「出面(でづら)」と書きます。
読み方まであると、ChatGPTも前後の話をつかみやすくなりました。
もう1つは、例文を1つ添えることです。
「出面表=『山田 3人工、佐藤 2.5人工』のような表」
この一言を置くだけで、うちでは誤読がほぼ消えました。
用語集づくりのコツ: 経理と職長で意味が違う言葉こそ載せる
何を載せるかは、最初に少し迷いました。
結局、先に入れたのは、社内の人間同士でも時々すれ違う言葉でした。
たとえば「原価」です。
職長さんの言う原価と、経理の言う原価では、含めている範囲が違うことがあります。
「一式」もそうでした。
見積もりの「一式」にどこまで含めるのか。
会社によって違いますし、下手をすると担当者ごとに違います。
こういう言葉は、AIもかなりの確率で間違えます。
そして実際には、社内でもトラブルの種になっていました。
用語集を作ってみると、AI以外にも良いことがありました。
AIのために言葉を決める作業が、そのまま会社の共通言語の棚卸しになったんです。
作った用語集は、新人教育にもそのまま使えます。
ベテランの頭の中にある言葉を、会社に残す一歩にもなりました。
この「会社に残す」という考え方は、図面は会社の記憶で詳しく書きました。
おまけ: AIが誤読しやすい現場言葉ミニ辞典
用語集を作るときの種として、AIが特に誤読しやすかった現場言葉を挙げておきます。
御社で使っているものだけ、拾ってください。
| 現場での意味 | AIの誤読 |
|---|---|
| 殺す=動かないように固定する | 物騒な意味に受け取り、答え自体を避けることも |
| 逃げ=位置決めの基準、または寸法の余裕 | 「逃げる・回避」の話として解釈 |
| 馬=材料を載せる脚付きの台 | 動物の馬 |
| 番線=結束用の鉄線 | テレビのチャンネルや路線番号 |
| ダメ(ダメ工事・ダメ回り)=仕上げ残りの手直し | 「駄目=不可」という評価 |
| 朝顔=落下物防護の張り出し | 植物のアサガオ |
並べてみると、少し笑い話のようにも見えます。
ただ、日報や指示書をAIに要約させると、本当にこの言葉だけで意味が崩れました。
反対に、先に教えておくだけで、少しずつ「うちの文章が読めるAI」に変わっていきます。
毎回貼るのは面倒——を解決する設定
ここまで読むと、「用語集を毎回貼るのは面倒だな」となります。
うちでも、そうでした。
毎回コピペするやり方では、やはり続きません。
ChatGPTには、一度設定すると、毎回の会話に反映できる機能があります。
- **カスタム指示(あなたについての設定)**に用語集を書いておく——全部の会話に効きます
- プロジェクト機能を使い、「見積もり用」「日報用」など用途ごとに用語集と資料をまとめておく——仕事別に使い分けられます
どちらも数分で設定できます。
一度入れておけば、次からは「うちの言葉が通じるChatGPT」が最初から出てきます。
社内で複数人が使う場合は、元になる用語集を1つ決めました。
全員が同じものを設定しないと、人によって意味が違い、またズレが始まるからです。
置き場所は、共有フォルダに1ファイルで十分でした。
更新したら日付を変えて、全員に配り直す。
うちでは、そのくらいの運用がちょうどよかったです。
よくあるご質問
Q. 用語集は何個くらい載せればいいですか?
A. まず10個で十分です。
最初から増やしすぎると、管理が続きません。
使っていて誤読に気づいたら、1つ足す。
このやり方が、いちばん長く続きました。
Q. 社外秘の情報(単価など)を用語集に入れても大丈夫ですか?
A. 用語の意味だけであれば、問題は小さいです。
ただ、実単価や顧客名を入れる場合は、AIの設定で「入力を学習に使わない」をオンにしてからにします。
法人プランでは、標準的に設定できます。
判断に迷うものは載せません。
必要な会話のときだけ、その分を渡すようにしています。
Q. 用語を教えても、まだ変な答えが返ってきます。
A. 次に見直したいのは「例」です。
ほしい答えの見本として、過去の日報1枚や、見積もりの1行を添えます。
それだけで、返ってくる答えの形が一気に揃うことがありました。
用語集と、見本を1つ。
うちでは、この組み合わせが実務でいちばん使いやすかったです。
使いどころ全般は、ChatGPTが効く5つの場面にまとめています。
御社で試すなら、今日やることはこれだけです。
自社でよく使う建設用語を10個、意味と例文付きで書き出して、ChatGPTのカスタム指示に貼る。
そして、貼る前と貼った後で、いつもの指示への答えを見比べてみてください。
「あれ、こんなに変わるのか」
そんな1件が、きっと出てきます。
AIを、自社の言葉に合わせる。
私たちは、この小さなところを整えてから、「AIはうちには合わない」が、少しずつ「AIはうちの戦力だ」に変わっていきました。
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ARCFEELGROUP株式会社
ARCFEELGROUP株式会社。土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)で、 建設業のIT/DXとAI活用ツールの内製を担っています。評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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