AI導入は、うちの損益計算書のどの行に効くのか——建設会社で半年やって、動いた行と動かなかった行
私たちは、土木・建築・設備の3業種、約110名の建設会社を経営しています。建設業は20年以上やってきて、この半年ほどは、社内で使うAIツールを自分たちで作りながら回しています。
「AIって、結局うちの何が良くなるんですか」
同業の方から聞かれたとき、以前は「事務の時間が減ります」と答えていました。間違ってはいないのですが、これだと社長には響きにくいんですよね。時間が減った先に何があるのかが見えないからです。
なので最近は、決算書の行で説明するようにしています。上から順に、どこが動いてどこが動かなかったか。半年やった実感を、正直に書いてみます。
完成工事高——正直、まだ大きくは動いていません
一番上の行から行きます。
理屈のうえでは、事務が軽くなれば見積もりを出せる件数が増え、受注が増える、という道はあります。実際、書類が詰まって見送った引き合いというのは、どこの会社にもあると思います。
ただ、うちの場合、この半年でここが目に見えて増えたとは言えません。工事の受注は、段取りや人の手配や現場の状況で決まる部分が大きくて、事務が軽くなったからすぐ売上が伸びる、という単純な話ではありませんでした。
例外がひとつあって、それは新しい入口を作った分です。自分たちでホームページを作れるようになったので、以前たたんだ事業を再開したり、本業の技術を民間向けに出したりできました。ここは実際に問い合わせにつながっています。
つまり売上に効いたのは「事務が速くなったから」ではなく、「外に出す入口を自分たちで作れるようになったから」でした。ここは正直に分けて書いておきます。
完成工事原価の労務費——ここはほぼ動きません
次の行です。先に言っておくと、現場の労務費はAIでは減りません。
当たり前ですが、AIは掘りませんし、運びませんし、据え付けません。ここを「AIで人件費が減る」と説明する人がいたら、建設業を知らない人だと思った方がいいです。
ただ、まったく無関係かというとそうでもなくて、現場の人が事務所に戻ってから書いていた書類の時間は減りました。これは労務費というより、後で出てくる残業の行に効いています。

外注費——ここは、はっきり減りました
うちで一番分かりやすく動いたのがこの行です。
ホームページの制作と更新、記事の作成、社内で使う小さな仕組みの開発。以前は外に頼んでいたものを、この半年で自分たちで作れるようになりました。
外注が悪いという話ではありません。ちゃんとしたものが出てきますし、頼んだ方が早い仕事もあります。ただ、直したいときにすぐ直せないのが、うちの場合は一番のつまずきでした。細かい改善を何度も回したい仕事ほど、内製の方が向いていました。
販管費——事務の残業が、ここに出ました
社長として一番効いたと感じるのは、この行です。
経費精算、日報の集計、請求のとりまとめ。どれも毎月必ず来て、月末に固まる仕事です。ここが軽くなると、事務の残業がはっきり減ります。
建設業の残業を3つに分けてみると、「記録を書き写す仕事」がかなりの割合を占めています。AIが効くのは、まさにここでした。

決算書に載らない行——社長の時間
これは行がありません。でも、実際には一番大きいと思っています。
数字を集める時間、資料を読む時間、あちこちの画面を開いて足し算する時間。社長の時間は決算書のどこにも計上されませんが、なくなれば確実に会社は変わります。
浮いた時間で何をするかは人それぞれですが、うちの場合は、判断に入るのが早くなりました。数字を集めるところで力尽きていたのが、集まった状態から考え始められる。これは金額に直しにくいのですが、経営としては大きい変化でした。

増える行も、正直に書いておきます
良いことばかり書いても仕方がないので、増えた分も書きます。
AIの利用料が増えます。人が使う分の月々の定額と、アプリが裏で使った分。請求が何種類かに分かれていて把握しにくいので、ここは早めに1つにまとめて見えるようにしておくことをおすすめします。
学ぶ時間も要ります。これは費用として出てきませんが、最初の何ヶ月かは確実に時間を取られます。社長自身がある程度触らないと、どこに使えるかの見当がつかないので、ここは省けない部分だと思っています。
「投資」と呼べるのは、たぶん一つだけ
ここまで書いてきて思うのは、AI導入の効果を金額で説明しようとすると、どうしても細切れになるということです。
外注費が減った。残業が減った。売上は少し。利用料は増えた。足し引きすると残る、くらいの話になります。
ただ、ひとつだけ性質の違うものがあります。それは、社内に残るやり方そのものです。
一度、自分たちで作って直せるようになると、その力は次の仕事にも使えます。うちの場合、最初に経費の仕組みを作った経験が、次の日報にも、その次のホームページにもそのまま効きました。1回買って終わりの道具とは違って、使うほど溜まっていく感じがあります。
そう考えると、これは費用というより、設備を1台入れたのに近いのかもしれません。減っていくのではなく、使うほど回るようになるという意味で。

測るなら、行を1つだけ選んでください
最後に、これから始める方への現実的な話を。
全部の行を測ろうとすると、まず続きません。おすすめは、自社で一番重い行を1つだけ選んで、そこだけ測るやり方です。
事務の残業が重いなら、そこ。外注費がかさんでいるなら、そこ。時間の測り方は以前書いたので、そちらもあわせてご覧ください。
1つの行が動けば、次にどこへ広げるかの見当もつきます。逆に、全部を一度に変えようとすると、たいてい止まります。
よくある質問
Q. 一番早く効果が出るのはどの行ですか?
A. うちの実感では、販管費——特に事務の残業です。毎月必ず発生していて、量も読みやすいので、変化がすぐ数字に出ます。売上の行は、動くとしてもかなり後になります。
Q. 現場の人件費を減らしたいのですが、可能ですか?
A. 現場作業そのものは減りません。減らせるのは、現場の人が事務所でやっている記録や報告の時間です。そこを軽くすると、同じ人数で回せる現場が増える、という形で効いてきます。
Q. 効果が出るまで、どれくらいかかりますか?
A. 事務の時間は、うまくはまれば1〜2ヶ月で体感が変わります。ただ、社内に定着するまではもう少しかかります。最初の数ヶ月は「効果を出す期間」ではなく「自社の使いどころを見つける期間」だと思っておくと、判断を焦らずに済みます。
このテーマの記事はまとめ:建設業の経費精算・資金繰り・経営の数字に読む順番で並べています。
まず全体像を知りたい方は建設会社のAI導入 30分説明会へ。自社の場合にどの行が動きそうか個別に相談したい方は無料相談をご利用ください。AI顧問が何をする仕事かはこちらにまとめています。
AUTHOR
﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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