2026年7月16日
建設業の残業は3種類——「現場が終わってからの2時間」を分けると、消し方が見える
夕方5時、現場の作業が終わります。
職人さんたちが道具を片付けて帰っていく。ここで一日が終わる会社は、ほとんどないと思います。現場監督には、ここから「二度目の勤務」が始まるからです。
事務所に戻って、今日の日報を書く。
撮った写真を整理してフォルダに入れる。
明日の職人さんの手配を、電話とLINEで確定させる。
月末が近ければ、勤怠の集計と請求書づくりが上に積まれる。
気づけば夜8時。
建設業の残業の主戦場は、現場ではなく、現場が終わったあとの事務所にあるのではないか。私たちはそう感じています。
私たちは建設業で20年以上、土木・建築・設備の3業種・約110名の会社を経営しています。この1年で、AIを使った道具を8本、自社向けに作って使ってきました。
その中でこの「二度目の勤務」の中身を見続けて分かったのは、残業とひとくくりにされている時間が、実は性質のちがう3つの領域でできていることです。
分けずに「残業を減らせ」と号令をかけても、なかなか減りません。
でも、分けて1つずつ消していくと、わりと素直に減っていきます。
「気合いで減らす」は、もう使えない
その前に、前提をひとつ。
2024年4月から、時間外労働の上限規制が建設業にも適用されました。原則は月45時間・年360時間。特別条項付きの36協定を結んでも年720時間などの上限があり、超えれば罰則の対象です。
ここで気をつけたいのが、仕組みを変えずに号令だけかけることです。
「残業を減らせ」とだけ言われた現場は、仕事を減らせないので、記録のほうを減らします。
日報を家で書く。
写真整理を休日にやる。
タイムカードを切ってから請求書をつくる。
残業が減ったのではなく、見えなくなっただけです。これは社員の健康にも、会社の法的リスクにも、一番よくない形だと思います。
数字で見ると、この規制は思ったより近くにあります。定時後の「二度目の勤務」が1日2時間なら、月22日で44時間。それだけで原則上限の45時間に、ほぼ届いてしまいます。
現場作業の残業を、1分も足していないのに、です。
だから順番は、号令ではなく、まず中身を分けて見ることからだと思っています。
残業の中身は、3つに分かれる
「二度目の勤務」を観察すると、中身は3つに分かれます。
① 記録の残業(毎日・書き写す仕事)
日報の清書、出面の記入、写真の整理、報告書への転記。特徴は、今日すでに起きたことを、もう一度書き直していることです。現場で一度メモしたことを、事務所でもう一度書く。同じ情報を2回、ときには3回書いています。
② 段取りの残業(毎日・考える仕事)
明日の職人手配、資材の確認、発注者や近隣との調整。これは判断の仕事で、監督の本業そのものです。ただよく見ると、時間を食っているのは判断そのものではなく、判断の材料を集める手間だったりします。「あの現場、明日何人だっけ」を確認する電話の往復、のような。
③ 締めの残業(月末集中・数える仕事)
勤怠の集計、請求書の作成、原価の突き合わせ。毎日は発生しないかわりに、月末に山になって来ます。中身は足し算と転記の塊で、人がやる必然性が実は一番薄い領域です。
この3つは性質がちがうので、同じ薬が効きません。
消す順番は、①→③→②
最初は、①記録の残業からがおすすめです。一番即効性があるからです。
やることは「入力を一回にする」。現場でLINEを送ったら、それがそのまま日報になり、出面になり、集計に流れる形にする。私たちが最初に作ったのもここでした。
現場の人に新しい操作を覚えてもらう必要がほぼなく、毎日使うので、効果が毎日出ます(新しい道具が現場に定着する条件は社員がAIを使わない本当の理由に書きました)。
次に、③締めの残業。
①で日々の記録がデータになっていれば、月末の集計は「計算」ではなく「呼び出し」になります。勤怠の残業時間も、請求書の金額も、機械が数えたものを人が確認するだけ。月末の山が、構造的に消えていきます。
おまけに、経営側にも副産物があります。月末にならないと見えなかった出面や原価の数字が、日々見えるようになる。締めが「作業」から「確認」に変わると、数字が経営の道具に変わっていきます。
逆に、①を飛ばして③だけ自動化しようとすると、紙の記録をデータに打ち直す仕事が新しく生まれて、だいたいうまくいきません。①→③の順番は入れ替えられないと思っています。
②段取りの残業は、最後です。
正直に書くと、判断そのものはAIでは消えません。明日の人繰りを決めるのは、監督の仕事のままです。
ただ、①と③が済んだ会社では、②が勝手に短くなっていきます。どの現場に誰が何人入っているか、今月の出面がどうなっているかがすぐ見えるので、「材料集めの電話」が要らなくなるからです。
②は直接攻めずに、①③の副産物として回収する。これが私たちの実感です。
まず、1週間だけ測ってみる
打ち手の前に、1週間だけ測ってみることをおすすめします。
監督さん2〜3人に、定時後の時間を「①書いた・②段取った・③数えた」の3つでメモしてもらうだけです。厳密でなくて構いません。
たいていの会社で、①と③の合計が半分を超えます。つまり、残業の半分以上は「判断の仕事」ではなく「書き写す・数える仕事」。人でなくてもできる仕事に、罰則リスクを負いながら、人の夜の時間を使っていることになります。
この数字が見えると、何から手をつけるかの社内の話は、驚くほど簡単になります(最初の一歩の選び方は中小建設業のDXは何から始めるかにも書きました)。
よくあるご質問
Q. うちは現場作業そのものが長引いて残業になっています。
A. 工期と人員の問題は、この記事の3領域では消えません。ただその場合も、まず測る価値はあると思います。「現場が長い」と思っていたら、実は現場後の事務が2時間乗っていた、という会社を何度も見てきました。切り分けないと、工期の問題なのか事務の問題なのかも決められません。
Q. 日報を家で書くのは残業に入りますか?
A. 入ります。持ち帰りも業務である以上、労働時間です。そして把握されていない持ち帰り仕事は、上限規制の時代に一番危ない形です。「家で書かなくていい仕組み」を先につくるのが、社員を守る筋だと私たちは考えています。
Q. 段取りもAIが自動でやってくれると聞きましたが。
A. 提案までなら道具はあります。ただ、職人さんの相性や現場の癖まで含めた最終判断は、人の仕事だと思います。私たちは「判断を代行するAI」より「判断の材料を一瞬で揃えるAI」のほうが、現場では役に立つと感じています。
残業対策のゴールは、残業時間の数字を小さくすることではないと思っています。
監督の夜を、書き写す仕事から取り戻すこと。
夕方5時以降の2時間を、3つに分けてみる。今週、そこから始めてみてください。
AUTHOR
ARCFEELGROUP株式会社
ARCFEELGROUP株式会社。土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)で、 建設業のIT/DXとAI活用ツールの内製を担っています。評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
ARCFEEL × AI について