建設業の経費精算は何が違う?——工事ごとに分かれるお金と、先に決める6つのこと
「7月分の精算書に、7月の領収書が入っていないんですが」
社内からそう言われて画面を開いたら、たしかに入っていませんでした。ただ、これは不具合ではなくて、私たちがそう決めてあったんです。
経費精算でいちばん揉めるのは、金額でも領収書の枚数でもなくて、その一枚が**「何月の、どの現場のものになるか」**の方でした。
私たちは建設の会社で、事務所で使う道具はこの半年ほど自分たちで作って回しています。経費精算のアプリもそのひとつです。経費精算については以前にも書きましたが、あれは「うちがどう直したか」という体験の話でした。今回は逆向きで、これから考える会社が何を決めることになるのかを、決めごとの側から並べてみます。
建設業の経費精算が、ほかの業種と少し違うところ
経費精算のシステムを比べていると、たいてい「入力が楽になります」「承認がスマホでできます」という話が並びます。それは本当なんですが、建設会社で重いのは少し別のところにあります。
ひとつ目は、お金に行き先があることです。ガソリン代も高速代も金物屋の買い物も、最後は「どの工事の原価か」に落ちます。事務用品を買った、で終わる業種とはここが違います。金額を読み取るところまでは道具がやってくれても、行き先を決めるのは別の仕事なんですよね。
ふたつ目は、立替が多くて、人が散っていることです。現場から直帰する人がいて、レシートは車のダッシュボードに溜まります。事務所に毎日戻る会社とは、集まってくるまでの時間がまるで違います。
三つ目は、締めが月末とは限らないことです。うちのグループでも、15日締めの会社と月末締めの会社が同居しています。給与の締めとも、請求の締めともずれていたりするんですよね。
この三つがあるので、「経費精算を楽にする」と言ったときにやることが、たぶん想像より広くなります。以下、実際にうちで決めることになった六つを、決めた順に近い形で並べてみます。
今どの形で回っているか(三つの段階)
決めごとに入る前に、今の自社がどこにいるかだけ見ておくと、話が早いです。
| いまの形 | 何が起きているか |
|---|---|
| 紙+エクセル | 台紙に貼る・日付と金額を書き写す・経理が打ち直す。枚数と人数の掛け算で月末が埋まる |
| 会計ソフトに直接 | 打ち直しは減るが、入力するのが経理一人に寄る。現場からの「これどこの分?」は残る |
| 専用の仕組み | 打ち込みは減る。代わりに、下の六つを自分たちで決める必要が出る |
三段目が偉いという話ではありません。一段目でも回っている会社はありますし、枚数が少なければそれがいちばん安いです。ただ、三段目に上がると「勝手に決まっていたこと」が全部こちらの決めごとになる、という性質があります。そこだけ先に知っておくと、導入の途中で止まりにくくなります。
決めごと① その一枚は、いつの分か
冒頭の「7月分に7月の領収書が入っていない」は、ここの話です。
経費が何月分になるかの決め方は、大きく二つあります。領収書に書いてある日付で決めるか、提出された日で決めるか。
うちは提出された日で決めています。理由は単純で、月末に出てきた四月の領収書を四月分に入れ直すと、締めた後の月の数字が動いてしまうからです。動くと、一度出した精算書ももう一度出し直しになります。だから、四月八日の領収書でも七月に出せば七月分として扱う、という形にしました。
どちらが正しいということはありません。ただ、決めていないと必ずどこかで揉めます。しかも揉めるのは締めた後なので、いちばん面倒なタイミングで出てきます。
もうひとつ、締切が複数ある会社は注意が要ります。うちは15日締めと月末締めが同居していて、月の境目をどちらで取るかを間違えると、どちらの月にも入らない期間ができました。誰も文句を言わないまま、数枚が消えたように見える状態です。これは実際に起きて、後から直しました。
決めること:何月分とみなすかを「領収書の日付」か「提出日」で先に一本にする。締切が複数あるなら、月の境目に使う方をはっきりさせる。

決めごと② どの現場の分かを、誰が決めるか
金額と日付は読めます。読めないのは工事コードです。というより、領収書にはそもそも書いてありません。ガソリンスタンドのレシートに現場の番号は入っていないので、これは読み取りの精度の話ではないんですよね。
ここで「現場の人に書いてもらう」形にすると、最初の数日はやってくれますが、忙しくなれば抜けます。抜けた分は事務所で埋めるので、結局もとに戻ります。この話は長くなるので別に一本書きました。
要点だけ言うと、打ってもらうのではなく、選んでもらう形にできるかです。番号を覚えてもらう案になっていたら、たいてい続きません。
決めること:工事に紐づける人を、現場側に置くか事務所側に置くか。現場側に置くなら、打たずに選べる形になっているか。
決めごと③ 承認を何段にするか
ここは道具より先に、会社の形の話です。
うちの仕組みには、本人が申請して会社が承認する形と、部門長がいったん承認してから会社が承認する形の両方を入れました。現場代理人ごとに見たい会社と、経理でまとめて見たい会社があって、どちらかに決め打ちすると必ずどちらかが困ったからです。
ただ、段を増やすほど止まりやすくなるのも確かです。承認する人が現場に出ていれば、その分だけ精算が遅れます。段の数は「誰が認めたかを残したい」度合いと、「止まらないこと」の間で決めることになります。
余談ですが、経理を一人でやっている会社ほど、ここは絞る方向より「触れる範囲を分ける」方向で考えた方が楽です。その話はこちらに書きました。
決めること:承認は何段か。承認者が不在のとき、誰が代われるか。

決めごと④ 保存と制度のこと
正直に書きます。私たちのアプリのヘルプには、「電子帳簿保存法への対応を保証するものではありません」と書いてあります。
道具を売る側の言い方としては弱く見えるかもしれません。ただ、制度に合っているかどうかは、道具の機能だけで決まる話ではないんですよね。何をどう受け取って、どう保存して、社内でどんなルールで運用しているかまで含めて、はじめて当てはめができます。だからうちは、そこは顧問税理士さんと確認していただく前提にしていて、機能の側では「領収書の画像は七年残る」ところまでを引き受けています。
会社の側で先に数えておくといいのは、受け取り方の内訳です。紙で受け取っているもの、メールにPDFで届くもの、アプリの画面から落とすもの。この三つがそれぞれ何割かで、決めることが変わります。数えるのは一日で終わります。
制度の細かい要件をここに書くことはしません。年度で変わりますし、当てはめは専門の方の仕事です。「うちはどの形で受け取っているか」を持って相談に行くと、話が一往復で済みます。
決めること:受け取り方の内訳を数える。制度の当てはめは税理士さんと決める。保存期間と、その画像がどこに残るかを確認しておく。
決めごと⑤ 会計ソフトへ、どの形で渡すか
出口の話です。読み取ったあと、会計ソフトに入るまでに誰かが手を動かしていたら、その分は減っていません。
うちは自分たちで作った経費精算AIで、弥生会計向けのデータをそのまま出す形にしています。ここが繋がっていないと、エクセルに出して毎回体裁を整える時間が残ります。この「出したあとに整えている時間」は、見積もりの段階ではまず話題に出ないので、こちらから聞くところです。
同じ理由で、精算書がそのまま印刷できるかも見ておくといいです。二十件を超えると崩れる、という地味な問題が実際にありました。紙の側の話は印刷の記事に書いたとおりで、出せない状態は減らせません。
出る形かどうかの次に、もう一段あります。貸方に何が立つかです。
うちが自分たちで作ったものは、貸方を「未払金」に固定して、社員名を補助科目に入れています。立て替えてもらった分をいったん全部「まだ返していないお金」として立て、返した時点で消す。現金で払ったかカードで払ったかは、仕訳の上では区別していません。区別しない代わりに、誰にいくら返すかは補助科目で分かる、という割り切りです。
固定にした分、融通は利きません。会社が増えたときに変えられなくて困る目はあって、そこは承知のうえです。合う形かどうかは税理士さんに確認いただくとして、選ぶ側としては「貸方には何が立ちますか」「補助科目は何で分けられますか」を先に聞いておくと、後から揉めません。
決めること:使っている会計ソフトにそのまま入る形で出るか。出したあと、人が整える作業が残らないか。貸方に何が立つか。

決めごと⑥ 会社を切り替えて使うなら
グループで何社かを一つの仕組みで見るなら、これも先に見ておくところです。
うちでは、会社を切り替えたつもりで領収書を上げたら、切り替える前の会社に登録されるということが起きました。しかも画面には「登録しました」と出ます。その場では誰も困らないので、報告も上がってきません。
対策は難しくありません。切り替えた直後に一件だけ登録して、別の画面でそれを確かめる。 月に一度、あるいは切り替えて使う日の最初に一度でいいです。一分もかかりません。
道具を検討している段階なら、説明を受ける場で「会社を切り替えたときの動き」を見せてもらってください。 説明会では、たいてい一社しか映りません。切り替えたときの挙動は、こちらから頼まないと出てきません。
決めること:切り替えて使うか。使うなら、切り替え後の確認を誰がいつやるか。
手を付ける順番
六つ並べましたが、全部を先に決めてから始める必要はありません。順番でいうと、こうなります。
- ①「いつの分か」だけは、先に決める。後から変えると過去の月が動くので、いちばん巻き戻しが重い
- ⑤「会計ソフトへの出口」を確認する。ここが繋がっていないと、入口を楽にしても総量が変わらない
- ②工事への紐づけを、打たせない形で作れるか見る
- ③承認・④保存・⑥切り替えは、動かしながら決めていける
逆に、いちばんやってはいけないのは、全部を決めてから一斉に切り替えることだと思っています。締めは毎月来るので、途中で止まると必ず月末にぶつかります。一つの会社、あるいは一つの部門から動かして、一度締めを通してみる。それで見えることの方が多いんですよね。
聞かれることの多い三つ
Q. 小さい会社でも仕組みを入れる意味はありますか?
枚数によります。月に何十枚という規模なら、紙とエクセルの方が安く済むことは普通にあります。ただ、現場が散っていて、立替が多くて、締めが複数ある——この三つが重なっている会社は、規模が小さくても効きやすいです。人数より、経路の数で考えた方が近いと思います。
Q. AIの読み取りは、どのくらい合っていますか?
数字と日付はよく読みます。ただ、読めなくても何かを埋めるのがAIなので、確認の工程はなくせません。なくせるのは打ち込む作業の方です。渡し方によっても変わるので、その話はこちらにまとめました。
Q. 現場が新しいことを覚えてくれるか不安です。
うちで効いたのは、覚えてもらう量をほとんど増やさなかったことです。スキャンするか、いつものメールに添付するか。それ以上を現場に頼まない形にしたので、お願いして回る場面がありませんでした。逆に言うと、現場に一つでも新しい手順を頼む設計になっていたら、そこが止まる場所になります。

決めるのは、道具ではなく運びの形です
経費精算の道具選びは、機能の比較表を見比べる作業だと思われがちなんですが、実際に手が止まるのは、上の六つのどれかが決まっていないときでした。
道具を見に行く前に、「何月分か」と「どの現場か」の二つだけ、社内で答えを出しておく。これだけで、説明を聞いているときの解像度がずいぶん変わる気がしています。
このテーマの記事はまとめ:建設業の経費精算・資金繰り・経営の数字に読む順番で並べています。
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﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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