建設会社の手元資金はいくら必要か——「多い・少ない」をやめて、使い道で三つに分けました
この記事は「実務Q&A」です。調べ物のための記事です。結論を先に書いています。読み物としての記事は、ブログ一覧の「読み物」からどうぞ。
「うちは、いくら現金を置いておけばいいんでしょうね」。社長同士で集まると、わりと出る話です。
先に答えを言い切ります。多いか少ないかを考えているうちは、答えが出ませんでした。使い道で三つに分けたところで、初めて「いくら要るか」が決まりました。
書いているのは、約110名でやっている建設グループの側です。社内で使うAIツールは外に頼まず自分たちで作っていて、いまは8本が動いています。そのうちの一本が、グループ19社ぶんの口座と借入をまとめて見る道具です。その画面の見せ方でしくじった顛末は以前に一本書きました。今回はその手前——合計をいくらにしておくか、の話になります。
手元資金は、いくら残しておけばいいのですか?
「何に使うお金か」で三つに分けて、それぞれを数える。この順でやると額が決まります。月商の何ヶ月分、という決め方では決まりませんでした。
手元資金とは、いますぐ動かせる現金と預金のことです。売掛金や在庫は入りません。
金額そのものを先に決めようとすると、根拠が持てないんですよね。月商の3ヶ月分と言われても、返済の重い会社と軽い会社では意味が変わってしまう。
分けてから数えると、話の向きが逆になります。「これだけ要るから、この額は動かせない」という順で決まるので、社内でも銀行との話でも説明ができる。数字より先に使い道を決める、という感じでしょうか。
なぜ「多いか少ないか」では決まらないのですか?
同じ残高でも、そのうちいくらが動かせない分なのかが分からなければ、多いとも少ないとも言えません。
うちで実際にあったのは、こういう場面でした。グループの残高を合計して見られるようにしたところ、額としては悪くない数字が出ます。ところが、その画面を見ても次の一手が決まらない。
理由は後から分かりました。合計の中に、来月出ていくことが確定しているお金と、当分動かさないお金が混ざったままだったんです。混ざっている数字は、大きくても小さくても判断の材料にならないんですよね。
だから社内で使っているアプリでは、AIに数字を渡すときの頼み方をこう置いています。「現預金が多いか少ないか」ではなく、「現預金の必要な内訳が整理されているか」を見てほしい、と。同じデータでも、問いの立て方で返ってくる中身は変わるんですよね。
来月以降も必ず出ていくお金は、どう数えますか?
一つ目の層です。借入の毎月の返済額、毎月の固定費、そして納税の見込み。この三つを足して、何ヶ月分を置いておくかを決めます。
返済額は集めやすいはずなのに、意外と一覧になっていないものです。うちだとグループ全体で借入が43本ありました。本数が増えると、一本ずつの返済予定表は手元にあっても、月にいくら出ていくかの合計が出てこないんです。
だから、借入を道具の側に入れて、月ごとのまとめが自動で出るようにしました。いまは月ごとのまとめが219件たまっています(9月4日に自分たちで数えた実数です)。
納税の見込みだけは、自分たちで断定しないようにしています。金額も時期も会社の状況で変わるので、顧問の税理士さんに確認した数字を置く。制度まわりを社内の推測で埋めない、という話は補助金・経審・制度改正の情報が多すぎる建設会社へでも触れました。
仕事を回すために先に出るお金は、どこまで見ますか?
二つ目の層です。入金より先に出ていく分で、建設業だとここが一番大きくなります。
材料も外注費も、現場が動いた月に出ていきます。人を増やすときや教育にかける分も、うちはここに入れています。入るのは出来高——工事の進み具合に応じて確定する金額のことです——が決まって、締めて、請求して、入金の期日を待ってからになります。この差の分は、現金で持っていないと回りません。
ここは、たいていの建設会社がすでに肌で分かっているはずです。分かっているのに困るのはどこかというと、何ヶ月分持てば足りるかを、感覚以外の形で言えないときなんですよね。
うちがやったのは、口座の残高を月に一度ではなく日々入る形にして、過去の動き方を並べて見ることでした。並べると、どの月にへこむかが目で分かる。一年ぶんも並べれば、へこむ時期はだいたい決まっていると気づきます。
残った分は、何のために置いておくのですか?
三つ目の層です。一つ目と二つ目を引いた残りが、初めて「動かせるお金」になります。
新しい機械、大きめの修繕、それから新しく何かを始めるとき。うちだとAIツールを作る費用も、ここから出しています。
金額そのものより、この層があるかないかが分かる状態にしておくことが大事な気がしています。残りがほとんど無いのに新しい話を進めると、どうなるか。二つ目の層を削るしかなくなります。削っていると気づかないまま進んでしまうのが、こわいところかもしれません。
借入は、少ないほどいいのですか?
本数が少ないほど良い、とは限りませんでした。本数を減らすことと、返済の重さを軽くすることは別の話だからです。
うちでは借入を一本ずつ見るときに、いくつかの見方を横に置いて眺めます。金利が低くて期間の長いもの、金利の負担が重いもの、実際の運転資金として短く借りているもの。それから、返済の終わりが近いものです。
同じ「借入残高」でも、この内訳が違えば打ち手も違ってきます。今後12ヶ月の返済が特定の時期に集まっていないか、という見方も一緒にしています。
ここも最終的な判断は、金融機関との関係や事業の予定を知っている人でないと決められません。数字を並べるところまでを仕組みにして、決めるのは人が残しています。似た形は「AIって、元が取れるの?」にも出てきます。あちらは時間とお金を分ける話でした。

AIに渡すと、この判断までしてくれるのですか?
判断はしてくれません。数字を集めて、抜けている観点を指摘してくれるところまでです。
うちのアプリでは、口座残高と借入のデータを集めてAIに渡し、三つの層の内訳と、返済が集まる時期と、気になる点を並べてもらう形にしています。戻ってくる文は「この会社に資金が偏っています」「この時期に返済が重なります」といった指摘でした。
そこから先の「では、どうするか」は人が決めます。実際に変わったのは、決めるための材料がいつでも出てくるようになったところ。以前は月に一度まとめて作っていました。判断の回数が増えたわけではなくて、判断できる時期が早まった、という感じです。
なお、こちらの数字を誰がどこまで触れるかという線引きは、経理が一人しかいない会社の「触れる範囲」に別で書いています。
明日、最初に数えるものは何ですか?
紙一枚で足ります。借入の月々の返済額を、全部足してみるところからです。
一本ずつの返済予定表は、どの会社にもあります。それを足した合計が、すぐ言えるかどうか。言えなければ、そこが最初の一歩です。
足せたら、毎月の固定費を足します。この二つが出た時点で、「絶対に減らせない額」のかたちが見えます。残高の合計からそれを引いた数字が、いま本当に動かせるお金です。
エクセルで構いません。うちも最初はエクセルでした。毎月書き直すのが面倒になった段階で、初めて仕組みにする話が出てきます。「紙の数字を一つ、データにする」——中小建設業のDX、何から始める?で書いた順番が、ここでもそのまま効いてくる気がしています。
お金まわりの記事をどの順で読むといいかは、まとめのページに並べてあります。
三つに分けてから、額を決める
多いか少ないかを見るのをやめて、何に使うお金かを数えるようにした。それだけで、迷う場面がずいぶん減りました。判断しなくていいことと、社長が決めるべきことが分かれた、というのが正直なところだと思っています。
御社の借入の本数や、入金までの間の長さによって、厚く持つべきところは変わります。この三つの分け方が自社にも当てはまるか、というところだけでも、説明会や無料相談で確かめていただけたらと思います。
まず全体像を知りたい方は建設会社のAI導入 30分説明会へ。自社の数字だとどの層をどれだけ持つべきか、個別に相談したい方は無料相談をご利用ください。AI顧問が何をする仕事かはこちらにまとめています。
AUTHOR
﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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