毎朝、全社の現金が見えるようにしたら——いちばん危なかったのは「0」と出ていた会社でした
毎朝、グループ各社の預金と借入が、まとめて手元に届くようにしています。
会社ごとに、預金がいくら、借入がいくら、差し引きの実質がいくら。それを見てから一日が始まる、という形です。
作ってしばらく経った頃、ある会社の預金が「0」と出ていました。残高が0なのではなく、その月の入力がまだだっただけでした。
私たちは建設の会社で、グループの経理を見る仕組みを社内で作って動かしています。以前、毎朝の点検の通知を一人ではなく複数人に送るようにした話を書きました。あれは知らせの宛先の話でしたが、今回は知らせの中身の話です。

なぜ作ったか——足りないより、多すぎて入れない
グループの数字は、もともと全部ありました。
月次の資料も、通帳の残高も、借入の一覧も、それぞれの会社にある。無いのではなく、散らばっていて、見るのに手間がかかる状態でした。
情報が無いのも困りますが、ありすぎて論点に入れないのも同じくらい困るんですよね。全社ぶんの資料を開いて、数字を拾って、並べ直して、それでようやく「今どこが苦しいか」が見えてくる。その頃には、考える時間が減っています。
なので、並べるところまでを毎朝やっておく形にしました。判断は人がやりますが、判断に入るまでの助走をなくすのが目的です。
並べ方も少し考えました。預金だけを並べても、実はあまり意味がない。借入と並べて、差し引きの実質まで出して、はじめて「この会社は今どうなのか」が見えてきます。数字は、単体より組み合わせで見るときに読めるようになるものなのだと思います。
そこに「0」が出ました
ある朝、一社だけ預金が0になっていました。
一瞬、身構えます。すぐに確かめたところ、残高が無くなったのではなく、その月の入力がまだ済んでいなかっただけ。
分かってしまえば何でもない話です。ただ、確かめるまでの数分は、あまり良い時間ではありませんでした。そして、確かめなかった日があったらどうなっていたかも考えました。
原因は、仕組みの側にありました。全社を同じ月で揃えて見にいく作りにしていたのです。ある会社は月初に入力が済み、別の会社は月半ばに入る。入力の早さは会社によって違うのに、こちらは月を固定して数字を取りにいっていました。
その月のデータが無い会社は、見つからず、0として表示される。そして合計にも0のまま足される。
怖いのは、間違った数字が正しい顔をして出ることです
これが仮に「読み込みエラー」と出ていれば、誰も困りません。おかしいと分かるので。
0は違います。0は数字なので、正しく見えます。 しかも並んでいる他社の数字は合っているので、画面全体としては何の異常もありません。
そして、合計が実際より少なく出る。グループ全体の現金を少なく見積もったまま、その日の判断をすることになります。
そもそも、なぜ0で埋まってしまうのか。集計する側にとって、0がいちばん扱いやすいからです。空欄のまま足そうとすると計算が止まりますし、エラーにすると通知そのものが届かなくなります。作る側の都合で、いちばん静かな選択肢が選ばれる——そういう構造になっていました。
0は「無い」に見えますが、実際は「知らない」でした。 この二つを同じ見た目にしていたことが、いちばんの問題でした。
直したのは、計算ではなく見せ方でした
やったことは三つです。
会社ごとに、その会社の最新の入力月を見る。 全社を同じ月で揃えるのはやめ。会社によって時点が違うのは、資料としては少し不格好ですが、実態には合っています。
「◯月末時点」という書き方をやめた。 「◯月 最新入力時点」に変えました。前の書き方は、月末の締めが終わった数字のように読めます。実際にはそうとは限りませんでした。
未入力は、0ではなく「残高未入力」と出す。 これが一番効きました。空欄でも構いませんが、とにかく0という数字にしない。会社ごとに時点が違うときは、その旨も注記します。
計算式は一つも変えていません。変えたのは、揃っていない数字を、揃った顔で見せないということだけです。

建設の仕事にも、同じ形があると思います
合計が出る場所には、だいたい同じ危うさがあります。
- 現場ごとの出来高を集計したが、報告がまだの現場が0で入っている
- 協力会社の請求を並べたが、月末に届く会社の分が抜けている
- 日報から工数を集計したが、未提出の人はそのまま0になっている
どれも、合計は必ず出る。そして出た合計は、それらしい数字に見える。原価が予定より良く見えたり、工数が少なく見えたりする方向に転びやすいのも、共通しているところです。
紙で集めていた頃は、束の厚さで「まだ来ていないな」と分かりました。画面では、それが分からない。
合計を見るときに、一緒に見るようにしたこと
三つだけ決めました。難しいことはしていません。
何件ぶん入っているかを、合計の隣に出す。 「5社中4社」と書いてあるだけで、読み方が変わるんですよね。
未入力を0で埋めない。 空欄か、未入力と書く。集計する側は0の方が扱いやすいのですが、見る側にとっては別物です。
数字の横に、いつ時点かを書く。 会社や現場で時点が違うなら、揃えずにそのまま書きます。揃っているように見せる方が、後で高くつきます。
この三つは、どれも集計の精度を上げる話ではありません。精度が足りていないことが分かるようにする話です。順番としては、こちらが先だと思うようになりました。
いただいた質問から
Q. 未入力があると、合計が出せなくて不便ではありませんか?
合計は出します。出したうえで「5社中4社ぶん」と添えるだけです。使えない合計にするのではなく、どこまでの合計なのかが分かる形にする、という考え方でやっています。
Q. 入力が遅れないようにする方が先ではありませんか?
そちらも進めていますが、完全には揃いません。締めの早さは会社の事情で変わりますし、揃えることを目的にすると、今度は急かす仕事が増えます。揃わない前提で、揃っていないと分かるようにする方が、現実的だと感じています。
Q. 毎朝見て、実際に何か変わりましたか?
判断が早くなったというより、判断に入るのが早くなりました。以前は数字を並べるところから始めていたので、そこで時間を使っていました。並んだ状態から始まると、考える時間がそのまま残ります。

見えるようにするより、見えていないところが見えること
作る前は、全部の数字が一画面に並ぶことが価値だと思っていました。
実際に効いたのは、入っていないところが「入っていない」と分かることの方でした。並べる仕組みは、放っておくと必ず空欄を0で埋める。埋めた瞬間に、その数字は嘘になります。
数字を集める仕組みを作るときは、集めるところより、集まっていないところをどう見せるかを先に決めておくといいと思います。
このテーマの記事はまとめ:建設業の経費精算・資金繰り・経営の数字に読む順番で並べています。
AUTHOR
﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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