社内にAIを入れるとき、どの仕事から任せる?——うちが使っている五つの物差し
この記事は「実務Q&A」です。調べ物のための記事です。結論を先に書いています。読み物としての記事は、ブログ一覧の「読み物」からどうぞ。
「AIって、まず何をやらせればいいんですか」
説明会でも、同業の集まりでも、いちばんよく受ける質問です。答えを先に書いてしまうと、うちには選ぶときの物差しがあります。
毎日のように発生して、少し面倒で、人によってやり方がバラついていて、あとからまとめると重くなり、そして現場の本丸ではない仕事。 ここから任せるのが、いちばんつまずきません。
私たちは土木・建築・設備の3業種、約110名の建設会社です。2026年の年明けから約半年で、社内で使うAIツールを8本作って動かしてきました。内製の疑問Q&Aでは「最初に作るものの条件は三つ」と約めて書きましたが、あれは自分たちで作る場合の話でした。実際に社内で「次はどの仕事をAIに任せるか」を決めるときは、作る・作らないの前に、もう少し細かく五つを見ています。今回はその五つを、うちの実例と一緒に書きます。
物差し① 毎日か毎月、かならず来る仕事か
一つめは頻度です。年に数回しか起きない仕事をAIに任せても、浮く時間は年に数回分しかありません。逆に、毎日来る仕事なら、一回あたりの効果が小さくても掛け算で効いてきます。
うちの経費精算が、まさにこの形でした。月末にかならず来て、全員が関わる。一枚一枚は数分の作業でも、束になると午後が消えるんですよね。
もう一つ、頻度の高い仕事には見えにくい利点があります。毎日使うものは、直す機会も毎日あることです。うちの半年でいちばん多かった作業は、作ることではなく直すことでした。たまにしか動かない仕組みは、不具合に気づくのも直すのも遅れます。
物差し② 外注するほどではないが、地味に面倒か
二つめは重さの加減です。
大きな構想から入らない、というのはうちが半年通して守ってきたことです。実際に困っている、だから減らすために手を付ける、動いたら直す、また使う。この順番で回してきました。「会社を変える」から入ると、仕組みを作る話より調整する話の方が大きくなります(このあたりはDXという言葉の記事に書きました)。
「外注するほどではない」というのが、実は良い目印なんです。外注するほど大きい仕事は、要件も関係者も多い。外注するまでもなく我慢している仕事は、要件が小さくて、困っている人がはっきりしている。AIに任せる最初の仕事として、ちょうどいい大きさです。
物差し③ 人によって、やり方がバラついているか
三つめは、バラつきです。
同じ日報でも、書く人によって言葉も粒度も違う。同じ集計でも、担当者ごとにエクセルの触り方が違う。こういう仕事は、人が頑張って揃えようとすると角が立ちます。「あの人のやり方を直してください」とは、なかなか言えません。
AIを間に挟むと、ここが揉めずに揃います。うちの日報は、現場には今までどおり書いてもらって、揃える作業のほうをAIに任せる形にしました。書く側に「この形式で書いてください」と迫らずに済んだのが、続いている理由だと思っています(日報の出口を三つに分けた話)。
バラついている仕事は、裏を返せば「決まった正解の形がまだ無い」仕事です。人の癖を直すより、受け取る側で吸収する。AIはこの使い方が得意です。
物差し④ あとからまとめると、急に重くなるか
四つめは、時間差です。
一件ずつは軽いのに、月末にまとめて処理すると急に重くなる仕事があります。経費の束、勤怠の突き合わせ、日報の集計。日々のうちは誰も困っていないのに、締めの数日だけ誰かが残業する。建設会社の事務の残業は、だいたいこの形をしています。
この型の仕事は、発生したその場でAIに処理させて、月末には確認だけが残る形に変えられます。うちの経費精算はスタッフが領収書をスキャンするだけで、読み取りと仕分けはその場で終わります。月末に積み上がらないので、締めの残業が構造から消えました。
「あとでまとめてやる」が前提になっている仕事を見つけたら、それはAIの候補です。
物差し⑤ 現場の本丸から、遠いか
五つめは、外した場合の重さです。
最初の仕事は、間違えても取り返しがつく場所から選びます。経費の読み取りが一枚間違っても、経理が気づいて直せば済みます。ところが見積の数量や原価の計算そのものから入ると、合っているかを確かめる作業が全部に付いて回ります。確かめるくらいなら自分でやる、となって、使われなくなるんです。
工事の品質や安全に直結する判断も、最初の一本には向きません。AIが向くのは判断の手前——数える、読み取る、揃える、下書きする——までで、決めるのは人のままです。本丸は、周辺で実績と勘所ができてからで遅くありません。
ひとつ、紛らわしい書き方をしているので断っておきます。DXは何から始めるかでは「毎日発生していて、間違うと痛い数字から選ぶ」と書きました。日報や勤怠のように、そこが狂うと下流の集計が全部狂う数字のことです。一見この⑤と逆に見えますが、指しているものが違います。あちらは直す値打ちがどこにあるかの話、この⑤はAIに任せて外したときに戻せるかの話です。日報や勤怠は、会社にとっては重いけれど、AIが読み違えても人が気づいて直せる。だから両方に当てはまります。
逆に、五つに当てはまっても外している仕事
正直に書いておくと、物差しに合っていても、うちが最初の候補から外しているものがあります。
金額や納期を、外に向かって確定させる仕事です。見積書の金額、請求書、工期の回答。ここはAIが下書きまで作っても、出す前にかならず人が通る形にしています。間違いが会社の約束になってしまう場所だからです。
社外に出るものと、社内で完結するもの。同じ「書類仕事」でも、この線は分けて考えています。
実務Q&A
Q. 五つ全部に当てはまらないと、だめですか?
A. 全部でなくて構いません。ただ、当てはまる数が多いほど、つまずきにくくなります。最低限見ていただきたいのは①(かならず来るか)です。頻度のない仕事は、うまくいっても効果が積み上がりません。
Q. 自社でツールを作る予定はなく、ChatGPTを使うだけです。それでも同じ選び方ですか?
A. 同じです。この五つは「作る仕事」ではなく「任せる仕事」の物差しなので、ChatGPTに文面の下書きを頼むだけでも当てはまります。道具の種類ごとの向き不向きは3種類の使い分けの記事に分けて書きました。
Q. この物差しで選ぶと、小さい仕事ばかりになりませんか。効果が出るのか不安です。
A. 小さくなります。ただ、建設会社は現場・事務・経理・原価・経営が一本につながっているので、一つの小さい改善が思った以上に全体へ効きます。日報が揃うと勤怠と原価の集計が変わり、集計が早いと経営の数字が早くなる。入り口は小さくても、流れの上流を直すと下流がまとめて楽になるんです。うちで実感してきたのは、むしろこちらでした。
Q. 何から始めるかは、誰が決めるのがいいですか?
A. 決める場に、社長が一度は入ることをおすすめします。担当者だけに任せると、その人の周りの仕事だけが便利になって終わりやすいからです。五つの物差しで候補を並べる作業自体は、30分もあれば済みます。

まとめ——紙に書き出して、印を付けるだけです
社内のよくある仕事を10個ほど書き出して、五つの物差しに当ててみてください。
- 毎日か毎月、かならず来るか
- 外注するほどではないが、地味に面倒か
- 人によってやり方がバラついているか
- あとからまとめると重くなるか
- 現場の本丸から遠いか
四つ以上に印が付いた仕事が、御社の最初の一本です。派手な仕事はたぶん残りません。それでいいんです。私たちの8本も、最初は「地味に面倒」を一つ潰しただけのところから始まっています。
このテーマの記事はまとめ:建設会社のAI導入、何から始めて何でつまずくかに読む順番で並べています。
まず全体像を知りたい方は建設会社のAI導入 30分説明会へ。自社の場合どの仕事からになりそうか、個別に相談したい方は無料相談をご利用ください。AI顧問が何をする仕事かはこちらにまとめています。
AUTHOR
﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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