2026年7月18日
建設会社でAI導入するなら、「DXをやる」より先に、消したい面倒を1つ決めた方がいい
こんにちは。
建設会社をやっていると、いろいろな場面で「DX」という言葉を聞きます。
銀行の担当者から聞かれることもあります。展示会に行けば、のぼりにも看板にもDXと書いてあります。最近では、保険会社や取引先との会話でも出てきます。
そうすると、社内でもなんとなく、「うちもそろそろDXをやらないといけないのかな」という空気になります。
ただ、この「DXをやる」という言い方が、少し難しいなと思っています。言葉が大きいので、話も大きくなりやすいからです。
全社の業務をまとめて変える。現場管理を一気に効率化する。情報共有を全部整理する。——方向としては大事です。ただ、最初からそこに行くと、かなり重くなります。
関係者が多い。ルールがまだ曖昧。現場ごとの違いもある。例外も多い。こうなると、仕組みを作る話より、調整する話の方が大きくなってしまいます。
AIやDXが止まる理由は、技術の問題だけではありません。社員のやる気がないからでもないと思います。単純に、最初に選んだ仕事が大きすぎる。そういうことが、かなり多い気がしています。
私たちも「DXをやろう」と思って作ったわけではない
私たちは建設業で20年以上、土木・建築・設備の3業種・約110名の会社を経営しています。この1年で、AIを使った社内向けの道具を8本作って使ってきました。
こう書くと「DXが進んでいる会社」に見えるかもしれません。でも正直に言うと、「DXをやろう」と言って作ったものは、8本のうち一つもありません。
領収書の山を月末にまとめて処理するのが面倒だった。だから経費の道具を作った。現場から来る日報をExcelに打ち直すのが面倒だった。だから日報の道具を作った。毎朝、数字をあちこち見に行くのが面倒だった。だから朝イチでまとまって届くようにした。
作って、使ってみて、ズレて、直す。その繰り返しです。気づいたら8本になっていました。
先に大きな絵があったわけではなく、目の前の面倒を一つずつ消していたら、あとから振り返ると絵になっていた。順番は、そちらでした。
白状すると、使われなかった道具もあります
きれいな話ばかりではありません。作ったのに、使われなかったものもあります。
理由を振り返ると、だいたい共通していました。便利にしようとして機能を盛りすぎた。その分、入力が重くなった。そして何より、入力する現場の側に、得がなかった。楽になるのは集計する側だけで、現場は手間が増えただけ。これでは使われなくて当たり前だったと思います。
このとき感じたのは、「現場が悪い」のではなく、設計が悪かっただけ、ということです。道具の性能の差より、運用の設計の差の方がずっと大きい。
そして、大きい仕事を選ぶほど、この設計は難しくなります。関わる人が増えるほど、「誰の得になるのか」がぼやけていくからです。小さく選ぶのは、臆病だからではなく、設計を外しにくくするためだと思っています。
最初に選ぶ仕事には、共通点がある
では、どんな仕事から始めるといいのか。私たちの経験では、進みやすい仕事にはだいたい共通点があります。
- 毎日(毎週)発生する——たまにしか起きない仕事は、軽くしてもあまり効きません
- 面倒だけど、必要——なくせない仕事だから、軽くする価値があります
- 後からまとめると重い——月末にツケが回ってくる系の仕事は、本命です
- 人によってやり方がバラつく——入口を揃えるだけでも効きます
- 現場の本丸ではない——いきなり施工のやり方を変えない。周辺の事務からで十分です
逆に、最初は選ばない方がいい仕事もあります。関係者が多すぎるもの。例外が多すぎるもの。全部変えないと意味が出にくいもの。——いずれ必要かもしれませんが、最初にやると止まりやすい。
やることを決めるのと同じくらい、やらないことを決めるのも大事だと思っています。
その仕事が月いくらかかっているのかを確かめたくなったら、電卓ひとつで元が取れるか確かめる方法に書きました。
会社を仕組みに合わせすぎない
もう一つ、建設会社で気をつけたいのは、会社を仕組みに合わせすぎないことです。
建設会社は、かなり個別性が強い商売です。同じ建設業でも、会社によって仕事の流れが違う。現場の種類も、管理の仕方も、人の動きも違う。だから、最初からぴったり合う既製品がある方が珍しいと思っています。
「このソフトを入れるなら、業務をこう変えてください」という形だけだと、現場に無理が出ることがあります。特に中小の建設会社では、きれいな理屈よりも、今の流れの中で無理なく入るか。使う人にとって自然か。毎日続けられるか。この方が大きいです(使われない道具になる理由は社員がAIを使わない本当の理由にも書きました)。
内製の価値も、ここにある気がしています。最初から完璧なものを作れることではなく、使いながら「そこじゃなかった」「この入力は重い」「ここは人が見た方がいい」というズレを、その場で直せること。安く作れることより、直せることなのかもしれません。
「DXをやろう」より、「先月いちばん面倒だった仕事は何か」
もし社内でAIやDXの話を始めるなら、最初の問いはこれくらいでいい気がしています。
「先月、いちばん面倒だった仕事は何ですか?」
この問いなら、現場からも事務からも答えが出やすいです。あの転記が面倒です。月末の領収書が重いです。写真を探すのが大変です。——こういう答えが出てきたら、それが最初のテーマでいい。
大きなDX計画を立てるより、まずその面倒を1つ消す。紙の数字を一つ、データにする。それで十分です。
社員に対しても、「DXを進めます」と言わなくていいと思っています。「この転記をなくします」「月末の作業を軽くします」の方が伝わります。これはDXの号令ではなく、ただの朗報です。社員は、言葉ではなく、自分の仕事が本当にラクになるかどうかを見ています。
よくあるご質問
Q. DX担当者を置くべきですか?
A. 担当者より先に「消す面倒」を1つ決める方をおすすめします。面倒が決まっていないまま担当者だけ置くと、その人の仕事が「調整」になってしまいがちです。面倒が決まっていれば、担当者は「それを消す人」になれます。
Q. 銀行や取引先に「DXの取り組み」を聞かれます。
A. 「日報の転記を減らしました。月20時間浮きました」のように、終わった実話で答えるのが一番伝わると思います。横文字の計画より、実際に減った手間や時間の方が、聞く側にも具体的です。
Q. 大きい業務改善は、ずっとやらなくていいのですか?
A. いずれ必要になる場面はあると思います。ただ、小さい面倒を消す経験を積んでからの方が、大きい話も進めやすくなります。何が定着して何が使われないか、自社の感覚が育っているからです。
DXという言葉は便利ですが、会社の中では少し大きすぎることがあります。
言葉が大きいと、仕事も大きくなる。仕事が大きくなると、調整が増える。調整が増えると、動きが止まる。
そうなるくらいなら、いったんDXという言葉を置いておいて、消したい面倒を1つ決める。
面倒を1つ消した会社は、もう「何もしていない会社」ではありません。大きな計画を立てる前に、目の前の仕事を1つ軽くする。建設会社のAI導入は、それくらいの始め方の方が、実務では進みやすい気がしています。
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ARCFEELGROUP株式会社
ARCFEELGROUP株式会社。土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)で、 建設業のIT/DXとAI活用ツールの内製を担っています。評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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