決算書・試算表はAIに読ませられる?——弥生のPDFをそのまま渡している建設会社が答えます【実務Q&A】
この記事は「実務Q&A」です。調べ物のための記事です。結論を先に書いています。読み物としての記事は、ブログ一覧の「読み物」からどうぞ。
「決算書をAIで分析」「ChatGPTに試算表を読ませる」という検索が増えています。できるのか、何と頼めばいいのか、数字を外に出して大丈夫なのか。調べている方の疑問は、だいたいこの三つに集まります。
私たちは土木・建築・設備の3業種、約110名の建設会社です。2026年1月から約半年で社内向けのAIツールを8本作って動かし、その一つとして、会計ソフトから出した決算書・試算表のPDFをAIに読ませる画面を実際に使っています。売る側ではなく、毎月使っている側として、聞かれた形のまま答えます。
Q. 決算書や試算表は、AIに読ませられますか?
読めます。会計ソフトから出したPDFなら、そのまま渡して大丈夫です。
試算表とは、月ごとに全部の勘定科目の残高を一覧にした表のことで、決算書はそれを一年分まとめて整えたものです。どちらも表の形が決まっていて、行と列の対応がはっきりしています。AIが苦手なのは「どの数字がどの項目か分からない紙」であって、決算書はその逆で、機械にとって読みやすい部類です。
うちで渡しているのは、弥生会計から出したPDFです。特別な加工はしていません。税理士さんとのやりとりで使っているのと同じ紙を、そのまま上げています。
一つだけ条件があります。文字として入っているPDFか、写真として入っているPDFかの違いです。会計ソフトから直接出したものは前者で、数字がそのまま読めます。紙に印刷したものをスキャンした場合は後者になり、読み取りの段が一つ増えるので、精度が落ちます。お手元の決算書が税理士さんからPDFで届いているなら、まずそれをそのまま使うのが早いです。
Q. ChatGPTに決算書を渡すとき、何と頼めばいいですか?
最初は「気になる動きを三つ挙げてください」だけで足ります。
「分析してください」と頼むと、長い解説が返ってきます。それはそれで読めるのですが、全部を同じ重さで書いてくるので、結局こちらが全部読むことになります。これでは紙を上から読んでいたときと変わりません。
うちが最初にやって効いた頼み方は、直近三か月分の試算表を並べて、前の月と比べて動いたところだけを出させることでした。金額の大きさではなく、動いたかどうかで拾わせる。こうすると、返ってくるのは数行です。
そのうえで、引っかかった行だけ「この費目が増えた理由として考えられることは」と追加で聞きます。頼む順番を全体の形→引っかかった行にするだけで、読む時間がまるで違います。
頼み方の文言を凝る必要は、あまりありません。凝るより、何を先に見たいかをこちらが決めておくことの方が効きます。うちの場合、先に見るのは外注費の割合、事務方の残業、入金までの間隔の三つで、それ以外は上の三つで説明が付かないときだけ降りていきます。
Q. 建設業の決算書は科目が特殊ですが、AIは分かりますか?
そのままでは、別の科目と取り違えることがあります。先に用語を渡してください。
建設業の決算書には、一般の会社とは違う名前が並びます。売上高ではなく完成工事高、買掛金ではなく工事未払金、それから未成工事支出金のように、他の業種には無い科目も混ざっている表です。
AIは一般の会計の言葉で学んでいるので、「完成工事高」を売上高と読み替えるところまでは、だいたいできる。ところが未成工事支出金のように、まだ売上になっていない原価を一時的に置いておく科目は、説明なしだと在庫のように扱ったり、費用として合計に入れたりする、ということが起きます。建設業の決算書は、まだ終わっていない工事の分が必ず混ざっているということを、先に一行書いておくだけで、読み違いはかなり減ります。
社内の言葉を先に渡す話は、現場用語をAIに教える記事に書きました。決算書も同じで、渡す前に「うちの科目の読み方」を一枚作っておくと、毎回それを一緒に渡すだけで済みます。
Q. AIの分析はどこまで当たりますか? 間違えませんか?
「動いた」という事実までは当たります。「なぜ動いたか」は、当たりません。
たとえば、AIが「販管費が上がっています」と出してきたとします。無駄が増えたのかと考えたくなりますが、その月に人を採っていれば、上がって当たり前の数字です。
機械が出すのは、数字が動いたという事実までです。**それが良いことなのか悪いことなのかは、会社の中で起きている事情で決まります。**きれいなグラフで出てくると、判断まで済んだ気持ちになりやすいのですが、ここは今も気をつけています。
もう一つ、読めなかった箇所でもそれらしい数字が埋まって返ってくることがあります。グラフを見て「おや」と思ったら、必ず元の紙に戻って確かめます。読む順番を変える道具であって、数字を保証する道具ではない、という線の引き方は答えを誰が確かめるかの記事に書いたとおりです。
Q. 会社の数字を外に出すことになりませんか?
なります。だから、渡す前に契約の形を決めてください。
決算書は、会社の中でもいちばん外に出したくない紙です。入力したものが学習に使われない設定になっているか、保存先はどこか、誰が入れられるか。個人の無料アカウントで試すのは、ここが確認できないのでやめた方がいいです。
うちは法人契約を先に決めて、そのあとで社内の使い方を決めました。順番が逆だと、便利さの方が先に広まって、線を引くのが後追いになります。この順番の話は社内ルールの作り方の記事にまとめています。
決算書のように重い紙ほど、誰が入れられるかを先に絞っておく方が安心です。経理の担当者が触れる範囲をどう決めたかは経理が一人の会社の権限の記事にあります。
Q. 税理士さんとの関係は、どう変わりますか?
税理士さんの仕事は減りません。こちらから聞ける質問の質が上がります。
これは税理士さんの仕事を置き換える話ではまったくありません。数字の意味づけ、税の判断、申告は、これまでどおり税理士さんに見ていただいています。
変わったのは、打ち合わせに持っていく質問です。前は「今月どうでしたか」としか聞けなかったのが、「この費目がこの三か月で上がっているのは、何が理由と考えられますか」と聞けるようになりました。同じ時間の打ち合わせでも、持ち帰るものが変わります。うちがAIにやらせているのは、相談の前の下ごしらえです。
Q. 実際に、何が変わりましたか?
変わったのは読む時間より、見る順番と、見る回数でした。
前は、月次の試算表が届くと最初のページから順番に追っていました。売上を見て、原価を見て、販管費を見て。最後まで行くころには、最初の数字をもう覚えていません。それでも「見た」ことにはなるので、そのまま次の月になります。
今は、先に全体の形を見ます。どの線が上がっているか、下がっているか。引っかかったところだけ、細かい数字に降りていく。読み終えるまでの時間より、引っかかる場所に着くまでの時間が変わりました。
想像していなかったのは、回数の方です。読むのに時間がかかっていたころ、月次は「まとまった時間が取れたときに見るもの」でした。取れない月は飛びます。軽くなると、見るのが行事から習慣に変わります。判断が遅れる原因は、たいてい情報が無いことではなく、見に行っていないことでした。数字を読む速さが上がるのは、経営者としてかなり大きいというのが、半年やった実感です。
建設業は、着工から入金までが長い商売です。損益計算書だけを追っていると、黒字のまま現金が細っていることに気づきません。うちが入金の間隔を別に見にいくようにした経緯は、毎朝、全社の現金が見えるようにした記事に書きました。

Q. 現場ごとの原価も、同じように読ませられますか?
会社全体の紙は読ませていますが、現場ごとの原価は人が見ています。
決算書や試算表は会社全体の紙で、形が決まっているので機械に読ませやすい。ところが現場ごとの原価は、途中の見込みが入っていたり、まだ請求が来ていなかったりします。同じ「原価」という言葉でも、確定した数字と見込みの数字が混ざっている。ここを機械にまとめさせると、それらしい合計が出てしまいます。
なので今のところ、会社全体は機械、現場ごとは人、という分け方です。この線は、そのうち動くかもしれません。ただ、動かすとしたら機械が賢くなったからではなく、こちら側で見込みと確定を分けて入れるようになったからでしょうね。
Q. 会計ソフトを変える必要はありますか?
ありません。うちも今までどおりの会計ソフトです。
渡しているのは、そこから出したPDFだけです。ソフトを乗り換える話にすると、それだけで一年かかります。決算書を読ませることと、会計ソフトを変えることは、切り離して考えてください。
最初の一歩としては、直近三か月分の試算表を用意して、契約の形を確認したAIに「前の月と比べて動いたところを三つ」と頼んでみてください。当たっているかどうかより、自分が見ようとしていなかった行が出てくるかを見ると、使えるかどうかの見当が付きます。
まとめ
- 決算書・試算表は、会計ソフトから出したPDFならそのまま読ませられる
- 頼み方は「動いたところを三つ」から。全体の形→引っかかった行の順で聞く
- 建設業の科目(完成工事高・工事未払金・未成工事支出金)は、先に一行渡す
- 当たるのは「動いた」まで。「なぜ」は会社の中の事情で決まるので、元の紙に戻って確かめる
- 契約の形を先に決める。個人の無料アカウントで決算書を試さない
- 変わるのは読む時間より、見る順番と回数
このテーマの記事はまとめ:建設業の経費精算・資金繰り・経営の数字に読む順番で並べています。
まず全体像を知りたい方は建設会社のAI導入 30分説明会へ。自社の数字の見方を個別に相談したい方は無料相談をご利用ください。AI顧問が何をする仕事かはこちらにまとめています。
AUTHOR
﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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