「これ、ChatGPTに貼っていいんでしょうか」——学習の心配と、預かりものの心配は別の問題です
「これ、ChatGPTに貼っていいんでしょうか」
社内でこう聞かれることがあります。
正直に書くと、今のうちでは、たいてい「いいですよ」と答えています。
私たちは建設会社で、この半年ほどはAIツールを自分たちで作って回してきました。自分たちで作っている以上、情報がどこへ行くかは気にしている方だと思うのですが、それでも「いいですよ」が多いのです。
理由と、それでも残っている線引きの話を書きます。

心配事の大半は、道具を決めた時点で終わっていました
社内ルールを作ろうとすると、つい「何を貼っていいか」の一覧から書き始めたくなります。私たちも最初はそう考えました。
でも実際に先だったのは、会社として使う道具を決めることでした。
個人が無料で使うものと、会社として契約して使うものでは、入れたデータの扱いが変わります。うちは法人向けの契約で、入れた内容が学習に使われない形で運用しています。設定も一度確認しました。
そこまでやると、心配事の大半が消えます。
「これを貼ったら、どこかで他社に出てしまうのではないか」——社内で一番多かった不安は、これでした。道具と契約の側で片が付く話だったので、中身を一つずつ選り分ける作業に時間を使うのをやめました。
ここは会社ごとに違うので、断定はできません。使う道具と契約の形と設定によって変わります。ただ、一覧を作る前に、規約と設定画面を一度だけ見る。この順番にすると、そのあとの話がとても短くなります。
会社で使うAIの入り方は、大きく三つに分かれます。整理は建設会社が使うAIは3種類にまとめました。

それでも残った線引きは、一つだけでした
では何でも貼っていいのかというと、そうではありません。
うちに残っている基準は、一つだけです。
それは自分の情報か、他人から預かった情報か。
自社の日報。自社の見積の考え方。自社で撮った現場写真。ここは迷いません。
元請けから受け取った資料。協力会社の単価。発注者の図面。持っているだけで、渡す権利までは持っていないものです。
言われてみれば当たり前なのですが、私たちもここに行き着くまでは「AIに読ませて大丈夫か」という一つの問いで考えていました。
学習の心配と、預かりものの心配は、別の問題です
ここが一番書きたかったところです。
多くの記事は「入れた情報が学習に使われるかどうか」を中心に書かれています。大事な話ですし、うちもそこから入りました。
でも、この二つは別の問題です。
- 学習の話——AIの提供元との間の話。契約と設定で解決できる
- 預かりものの話——取引先との間の約束。AI側をいくら整えても消えない
元請けとの契約書には、たいてい「第三者に開示しない」という条項があります。ここでいう第三者は、AIの提供元が学習に使うかどうかとは関係ありません。渡した時点の話です。
だから、学習の心配が消えた会社ほど、この二つ目を見落としやすいのではないかと思っています。私たちも、契約を整えたことで一度気が緩みました。
「安全な道具を用意したから、あとは自由に」ではなく、道具の安全とは別に、預かりものの線が残る。うちの社内では、この一行だけ強調しています。
分け方は、三つで足ります
一覧にすると、こうなりました。
| 分類 | 中身 | 扱い |
|---|---|---|
| 自分たちのもの | 自社の日報・報告文・社内資料・自社で撮った写真・自社の見積の考え方 | そのまま使ってよい |
| 預かりもの | 元請けの資料、協力会社の見積・単価、発注者の図面、社員や取引先の個人情報 | 相手との約束を先に確認する |
| 契約で出せないもの | 守秘の対象と明記されているもの | 使わない |
真ん中が判断の要るところですが、判断の仕方は難しくありません。「これを相手に見せたら、渡していいですかと聞く必要があるか」。聞く必要があると感じたら、それは預かりものです。
うちでは、判断が割れたものは使わない側に寄せています。急ぎの仕事を1本速くするために、取引先との関係を賭ける理由がないからです。
建設会社で、特に引っかかるところ
よその業種のルール雛形には載っていない項目です。ここは自社で足すしかありません。
元請けから預かった資料。 守秘の条項の書き方は契約ごとに違います。一度、手元の契約書を見てみると早いです。
協力会社の見積。 単価は先方の商売そのものです。社内で回すのと、外の道具に渡すのとでは、意味が違います。
現場写真。 自社で撮ったものなので「自分たちのもの」に入りますが、作業員の顔、車のナンバー、他社の看板、住所の読める表札が写り込みます。ここだけは、送る前に一度見る習慣にしています。

禁止から書き始めると、たぶん読まれません
もう一つ、順番の話です。
やってしまいがちなのが、禁止事項から書くことです。これを貼るな、あれを貼るな、と並べる。書いた側は仕事をした気になりますが、読む側には「使うな」としか読めません。読んだ人は、使うのをやめるか、黙って使うかのどちらかです。
だから私たちは、使っていいものを先に書きました。
順番を変えるだけで、読んだ後の行動が変わります。「これは使っていいのか」と分かると、まずそこから試す。試している人がいると、次の相談が出てきます。「この場合はどうですか」と聞かれるようになれば、ルールは生きています。
社員がAIを使わない理由は、抵抗ではなく土台の問題であることが多い、という話は以前の記事に書きました。禁止だけのルールは、その土台を自分で崩してしまう気がしています。
一枚にまとめるときの項目
私たちが一枚にまとめたときの項目です。A4一枚に収まります。
- 何のために使うのか(一行)
- 使っていい道具(会社が契約したもの。個人の契約では業務のものを扱わない)
- 自分たちのもの/預かりもの/契約で出せないもの
- 出てきたものを、そのまま社外に出さない(誰かが必ず目を通す)
- 迷ったときに聞く相手(部署名ではなく、人)
- 見直す頻度(半年に一度で十分です)
四つ目は、AIに任せる範囲と人が決める範囲の話につながります。ここは議事録AIの記事で書いたので、そちらに譲ります。
長くしないことが大事です。細かく書くほど、読まれなくなります。

よくある質問
Q. 社員が個人のスマホで無料版を使っているようです。すぐ禁止すべきでしょうか。
A. 禁止する前に、会社として使える道具を用意する方が先だと思います。禁止だけを先にすると、使わなくなるのではなく、見えなくなります。急ぎの見積の文面を家で打ち込む——悪気はなく、早く終わらせたいだけです。見えている状態の方が、まだ手が打てます。
Q. 学習に使われない契約なら、本当に何を入れても大丈夫ですか。
A. 提供元との関係ではそう考えて運用していますが、取引先との約束は別に残ります。元請けの資料や協力会社の単価は、学習の有無にかかわらず、渡していいものかどうかを先に確認してください。ここが本文で一番お伝えしたかったところです。
Q. ルールは誰が作ればいいですか。
A. 情報システムの担当者がいない会社の方が多いと思います。その場合は、実際にAIを使っている人が三人ほど集まって、直近の一か月で迷った場面を出すところから始めるのが早いです。想像で書いた禁止事項より、実際に迷った場面の方が、そのままルールになります。
聞き方が変わりました
以前は「これ、貼っていいですか」と聞かれていました。
今は「これ、うちのものでしたっけ」と聞かれます。
同じことを聞いているようで、判断の速さがまるで違います。前者は毎回考え込みますが、後者は数秒で答えが出ます。
うちの場合はどうか、で迷ったときは、まず社内で一番AIを使っている人に、この一か月で迷った場面を聞いてみてください。ルールの下書きは、だいたいそこにあります。
このテーマの記事はまとめ:建設会社のAIとセキュリティに読む順番で並べています。
まず全体像を知りたい方は建設会社のAI導入 30分説明会へ。社内ルールの作り方を個別に相談したい方は無料相談をご利用ください。AI顧問が何をする仕事かはこちらにまとめています。
AUTHOR
﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
ARCFEEL × AI について