建設業のエクセルテンプレート、そのまま使えない理由——選ぶ基準は完成度より「直しやすさ」でした
工事台帳のテンプレートをダウンロードして、開いて、しばらく眺めて、閉じる。
「うちのやり方と、どこか違う」
探し方が悪いわけではありませんでした。ぴったり合うテンプレートのほうが、めずらしいんです。
私たちは建設会社で、この半年ほど、社内で使う道具を自分たちで作りながら回しています。以前、日報の記事で「エクセルで足りる会社と、足りなくなる会社」という分け方を書きましたが、あれはエクセルを卒業するかどうかの話でした。今回はその手前、テンプレートを探して「合わない」と感じたとき、どう考えるかの話です。
合わないのは、探し方のせいではありません
検索すると、工事台帳、作業日報、原価管理表、実行予算——建設業向けのエクセルテンプレートは、無料のものだけでも山ほど見つかります。作った方がそれぞれ実務を踏まえているので、出来の悪いものばかりというわけでもありません。
それでも「そのまま使えた」という話は、あまり聞きません。
理由は単純で、同じ建設業でも、会社ごとに動き方が違うからです。工事番号の振り方。締め日の数え方。経費をどの単位で分けるか。元請の仕事が多いか、サブコンの仕事が多いか。どれも会社ごとに少しずつ違っていて、テンプレートはそのどれか一つの形しか選べません。
ぴったり合う既製の型が最初からあるほうが、むしろ珍しい。そう考えると、「合わない」はテンプレートの欠陥でも探し方の失敗でもなくて、当たり前の初期状態なんですよね。
列の過不足より、「だれが・いつ埋めるか」が合わない
合わないというとき、見た目でまず気づくのは列の過不足です。うちには要らない列がある。うちで使っている項目がない。ここは足したり消したりすれば済みます。
直しにくいのはもう一段深いところで、その表を、だれが、いつ、埋めるのかが自社と合っていない場合です。
たとえば原価管理表のテンプレートには、「毎週、担当者が数字を転記する」前提で組まれたものがあります。事務の方が月に一度まとめて入れる会社でそれを使うと、空白の週が並んで、表が「遅れている」ように見えてしまう。表の形は同じでも、埋まり方の前提が違うわけです。
作業日報のテンプレートも同じです。現場で書く前提の様式と、帰社してから事務所で書く前提の様式では、項目の並びも粒度も変わってきます。現場で書くなら選ぶだけの項目が多いほうがよく、事務所で書くならまとめて振り返れる形のほうがいい。どちらが正しいという話ではなくて、自社がどちらの回し方なのか、が先にあるんです。
テンプレートが決めてくれるのは「どの情報を持つか」まで。**だれが・いつ・どこから持ってくるかは、自社で決めるしかありません。**ここが決まらないままテンプレートだけ替えても、同じところで止まります。
それでも、テンプレートから始めるのは正解です
ここまで読むと「では自作するしかないのか」と聞こえるかもしれませんが、逆です。
ゼロから表を設計するのは、慣れていないとかなり骨が折れます。どの列が要るかを洗い出す作業そのものに、テンプレートは効くんです。開いてみて「この列はうちには要らない」と思えたなら、自社の動き方が一つ言葉になったということでもあります。
だから、そのまま使うことを目標にしない。たたき台として選んで、直して使う。最初からそのつもりで選ぶと、テンプレート選びはずいぶん気が楽になります。
選ぶ基準は、完成度より「直しやすさ」
そのつもりで見ると、選ぶ基準が変わってきます。
- 数式が追えるか。 セルを開いたとき、何を計算しているのか分かるでしょうか
- シートが分かれすぎていないか。 入力用・集計用・印刷用と分かれた凝った作りは、直すときに連鎖して壊れやすくなります
- 保護やマクロだらけでないか。 触れない場所が多いものは、配布された形のままでしか使えません
迷ったら、試しに行を一行足してみてください。集計が追いかけてくるか、どこかの数式が壊れるか。直せるかどうかは、触ってみるのがいちばん早いです。ダウンロードしたその日に一度壊してみるくらいの気持ちで確かめておくと、使い始めてから困りません。
見栄えが良く、機能が多いテンプレートほど、この基準では不利になります。エクセルのいちばんの強みは、自分たちで直せることです。直せない作りのものを選ぶと、その強みを最初から手放すことになってしまいます。
会社を型に合わせるのではなく、型を会社に合わせる。エクセルは本来、それができる道具です。
「直した人しか触れない」には、先回りできます
直して使う、と決めたときに一つだけ気をつけたいのが、属人化です。直した本人しか構造が分からない表は、その方が異動や退職をした瞬間に、誰も触れない「開かずの表」になります。
大げさな仕組みは要りません。どこを・なぜ直したかを、シートの端にメモしておく。 数式を書き換えた日付と一言だけでも、次に触る人の負担がまったく違ってきます。

エクセルを直して使える会社は、その先にも向いています
私たちが社内の道具を自分たちで作っているのも、理由は同じところにあります。既製のシステムを検討したこともありますが、たとえば経費の締めの数え方ひとつ会社ごとに違っていて、そこが合わないと現場が混乱してしまう。経費精算の記事に書いたとおり、うちは「先に決めごとを決めて、道具をそれに合わせる」順番にしました。
やっていることは、テンプレートを直して使うのと同じです。会社の動き方に合わせて、仕組みの側を直す。 エクセルの列を足し引きするのも、AIで社内ツールを作るのも、規模が違うだけで同じ話でした。
だから、社内にエクセルを直して使ってきた方がいる会社は、AIの内製にも実は向いています。動き方を自分たちで設計する感覚が、もう社内にあるからです。
まとめ——「合わない」から始まるのが普通です
- テンプレートが合わないのは当たり前。会社ごとに動き方が違うからです
- 列の過不足より、「だれが・いつ埋めるか」を自社で決めるのが先です
- たたき台として選び、直して使う。選ぶ基準は完成度より直しやすさです
- どこを直したかのメモ一つで、属人化には先回りできます
エクセルで足りるうちは、エクセルで十分だと思います。足りなくなったときの分かれ目は日報の記事に書きましたので、あわせてどうぞ。
このテーマの記事はまとめ:建設業の経費精算・資金繰り・経営の数字に読む順番で並べています。
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﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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