建設業の文字起こし——ソフト選びではもう差がつきません。効いたのは録り方の方でした
「文字起こし、どのソフトがいいですかね」
正直にお答えすると、もう、どれでも大丈夫です。
一年ほど前ならソフト選びの話になったんですが、今はそこで差がつきません。うちで実際に効いたのは、真ん中の道具ではなく、その前と後ろの方でした。
私たちは土木・建築・設備の三業種をやっている建設会社で、この半年ほど、社内で使う道具を自分たちで作りながら回しています。以前この仕事を「書き起こす/まとめる/決める」の三つに分けて書きました。今回はその両端の話になります。
真ん中は、横並びになりました
文字起こしの精度は、この一年でずいぶん上がりました。無料で使えるものでも、静かな部屋で一人がはっきり話していれば、まず困りません。
こうなると、道具の差より使い方の差の方が大きくなります。 同じものを全員が持てる状態では、持っていること自体は強みになりませんから。
だから、ソフト選びに何週間もかけるのはもったいないと思っています。手元にあるもので一度試して、駄目だった理由を見てから次を考える。その方が早いです。
そして実際に試すと、駄目だった理由はたいていソフトの側にありませんでした。
現場の音は、会議室の音と違います
うちで最初につまずいたのは、ここでした。
打ち合わせの録音といっても、建設の場合は事務所の中だけではありません。現場の詰所、資材置き場の脇、車の中、屋外。それぞれ音の条件が違います。
- 重機やコンプレッサーの音——人の声と重なると、機械の方が近いことが多いです
- 風——屋外で録ると、風がマイクに当たる音が声を消します
- 距離——テーブルの端に置いた機械は、向かい側の人の声を拾いきれません
- 人数——三人を超えると、誰の発言かが混ざります
- ヘルメットやマスク——声がこもり、語尾が落ちます
これらは、どのソフトを使っても同じように起きます。入り口で失われた音は、後から取り戻せません。
録り方で変わったのは、この四つでした
大がかりな機材は要りませんでした。うちでやっているのは次の四つだけです。
一つ目、置く場所を変える。 机の端ではなく、真ん中に。屋外なら、風上ではなく人と機械の間に。それだけで、聞き取れない箇所がはっきり減りました。
二つ目、最初に日付と現場名を声に出す。 「八月二日、◯◯の打ち合わせです」と一言。あとで探すときに効きます。 録音が溜まってくると、中身より「どれがどれか」の方が分からなくなるんですよね。
三つ目、最初だけ一人ずつ名乗る。 三人以上のときだけで構いません。名前が音として入っていると、後の整理がずいぶん楽になります。
四つ目、専門用語を先に渡しておく。 出面、常傭、歩掛。このあたりは、渡していないと毎回違う字に化けます(用語の記事はこちら)。
四つとも、費用はゼロです。道具を替えるより先に、こちらの録り方を替えた方が効きました。
なお「録音していいですか」の一言をどう切り出すかは、実務では最大のハードルでした。ここは前に一本書いたので譲ります。
後ろの端は、道具では埋まりませんでした
要点を並べるところまでは機械がやります。ただ、まだ宿題のはずのものが、まとめの段階で決定事項の顔をして並ぶ。読み返す人には、その区別が付きません。
そこで、確定だけは人が引き受ける形にしました。線の引き方は前の一本に書いてあります。
もうひとつ、「何を録らないか」も決めました
録れるようになると、今度は全部録りたくなります。うちも一時期そうでした。
ただ、溜めた録音はまず聞き返しません。探せない量になった時点で、無いのと同じなんですよね。紙の書類と一緒で、量が増えるほど一枚あたりの価値は下がっていきます。
なので今は、残すものを決めてから録るようにしています。決まりごとが出る打ち合わせ、引き継ぎ、揉めそうな相談。この三つ以外は、録っても消すか、要点だけ残して音は捨てます。
雑談まで残すと、後から読む人が「どこが本題か」を探すことになります。それは機械が肩代わりしてくれない手間でした。

道具が全員同じになると、差はどこに出るか
書き起こしの速さは、もう誰でも同じです。来年にはもっと同じになっているでしょう。
そうなったときに残るのは、その場で何を決めるかと、決まっていないものを決まったことにしない慎重さの方だと思っています。
これは文字起こしに限った話ではないのかもしれません。作業の速さは、道具が行き渡れば横並びになります。横並びにならないのは、判断の方です。
社内の道具を8本ほどこしらえてきて、効いたのは速さそのものより「どこを直すか決められること」でした。文字起こしでも、同じ形が顔を出した気がしています。
建設で効いた使いどころは、三つでした
- 打ち合わせ——議事録の作成そのものより、「言った言わない」が減ったことの方が大きかったです
- 現場を歩きながらのメモ——手が汚れていても、話しておけば残ります。写真と組み合わせると、後で見返せる形になります
- 引き継ぎ——辞める人、異動する人に一時間話してもらう。文章にしてもらうのは重いですが、話すだけなら引き受けてもらえます
三つ目は、思っていたより効きました。書いてもらうのは頼みにくいが、話してもらうのは頼める——この差は建設の現場ではけっこう大きいです。
これはよく聞かれます
Q. 無料のものと有料のもの、どのくらい違いますか。
静かな場所で一人が話す条件なら、体感の差は小さいです。差が出るのは長い録音、複数人、雑音の多い場所。まず無料で試して、駄目だった場面を控えておくと、有料に移るときの判断材料になります。
Q. 方言や訛りは大丈夫ですか。
ふつうの会話であれば、思ったより読みます。落ちるのは方言よりも固有名詞の方でした。地名、会社名、材料の商品名。ここは先に一覧を渡しておくのが確実です。
Q. 録音した音は、どこに残りますか。
道具によって違いますので、これは契約の前に確認してください。保存の場所と期間は、使い始める前に社内で決めておくのがおすすめです。後から決めようとすると、たいてい決まらないまま溜まっていきます。
選ぶより、録り方を変える方が早いです
もし今、比較表を眺めている段階なら、いったん閉じて、手元のスマートフォンで次の打ち合わせを録ってみてください。
置く場所を真ん中にして、最初に日付と現場名を言う。それだけで、比較表を三時間眺めるより多くのことが分かるはずです。
道具の差が消えていく分だけ、こちらの段取りの差が出てくる。そういう時期なんじゃないでしょうか。
このテーマの記事はまとめ:建設業の日報・勤怠・現場の情報に読む順番で並べています。
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﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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