積算AIは図面のどこまで拾えるか——自分たちで作って約半年、機械が止まる場所は毎回同じでした
壁が、0メートルと出ました。
図面はちゃんと開けています。画面には線も見えています。それなのに、拾った結果だけが空でした。
原因はAIの賢さではなく、図面の中身の作られ方の方にありました。
私たちは土木・建築・設備の三業種をやっている建設会社で、この半年ほど、社内で使う道具を自分たちで作りながら回しています。その中に、図面から数量を拾う積算AIがあります。以前見積もり業務にAIは使えるかという記事で、効くのは金額を決める場面ではなく下ごしらえの方だと書きました。今回はその一段手前、「拾い」そのものを機械にやらせると、どこまで行ってどこで止まるかの話です。
最初の分かれ目は、図面が読める形かどうかでした
同じ拡張子の図面でも、中身の作られ方は会社ごと、ソフトごとに違うんです。
線がそのまま図面の直下に置いてあるものもあれば、部品のかたまりの中に入れ子で沈んでいるものもある。人が画面で見る分にはどちらも同じに見えますが、機械にとっては別物でした。素直に直下だけを読みにいくと、後者は何も無い図面として返ってきます。
冒頭の0メートルは、これです。拾えなかったのではなく、探しにいった場所に線が置かれていなかった。
しかも壁のような部位は、一本の線では描かれていません。下地の両面と仕上げの層で、三本から六本の平行な線の束になっている。人はそれを見て「一枚の壁」と読みますが、機械には「近くに並んだ線」としか映らないわけです。束をひとまとまりと見なして芯を測る段取りをこちらで用意して、ようやく長さが出ました。
お伝えしたいのは技術の中身ではありません。同じ「積算AI」でも、御社の図面がどう描かれているかで結果が変わる。試すときは、他社の事例ではなく自社の図面で見てください。
拾えたあと、合い方に順番がありました
数量が出るようになってから、実物の見積と突き合わせています。
そこで分かったのは、金額の合計は先に近づくのに、項目の一致は後からしか付いてこないということでした。
金額の大きい工種——躯体や下地のような、面積が効くところ——は比較的早く実物に寄っていきます。ところが項目の数で見ると、まだ半分あたりで止まっている。細かい付随の項目が、ごっそり抜けているんです。
考えてみれば当たり前でしょうか。金額は大物が支配していて、項目は小物の数が支配している。「だいたい合っている」と「見積書として出せる」の間には、この差があります。
だから自動で埋まった割合を成績表のように眺めても、あまり意味がありません。見るべきは、埋まらなかった側が何なのかの方です。

抜ける項目は、過去の見積が教えてくれました
抜けるのは、いつも同じ種類のものでした。
親になる工事を拾うと必ず一緒に付いてくる、随伴の項目です。この下地を組んだなら、この受け材が要る。この仕上げをするなら、この見切りが入る。ベテランの頭の中では自動で付いてくるのに、図面の線をいくら数えても出てきません。
そこで、自社の過去の見積を読ませて、親と子の組み合わせと、その比率を覚えさせました。図面から親が拾えたら、覚えた子を係数で展開する。これは思っていたよりよく効いた部分です。
理由もはっきりしていて、随伴の項目は図面に描かれていない知識だからでしょう。図面から取れるものは図面から、図面に無いものは過去の見積から。分けて考えると、どちらを直せばいいかが見えてきます。
逆に言えば、過去の見積が一つの形に揃っていない会社では、この部分は動きません。何から手を付けるかは前の記事に書いたとおり、まず三件を同じ形に並べるところからです。
覚えさせた設定は、黙って古くなります
これは失敗の話です。
以前、ある部位の拾い方をこちらで設定して保存しました。そのあと運用しながら決めごとを直し、「この線は数えない」という除外を新しく足した。ところが結果を見ると、除外したはずのものが混ざっている。逆に、拾えるはずの部位が丸ごとゼロになっている現場もありました。
原因は、前に保存した設定が、そのまま生き残っていたことです。新しい決めごとは、後から入った現場にしか効いていなかった。
覚えさせる仕組みを持つと、必ずこれが起きるのでしょう。学習は積み上がる方向にしか働きませんから、捨てる作業は人が意識してやらないと誰もやりません。今は古い設定を現行のものに置き換える処理を挟んでいます。ただ、そもそも「いつの決めごとで拾ったのか」が後から分かる状態にしておく方が先ではないでしょうか。
ちなみに、この「覚えさせたもの」は単価表の側にも溜まります。うちの単価マスタは13の工種にまたがって2,049件になりました(自社データベースの実測)。数が増えるほど、直したつもりの単価が古いまま残る場所も増えます。 拾いの精度を上げる前に、こちらを畳んでおく方が結局は早い、というのが今の実感です。
単価表の更新は、資料を入れる作業ではありませんでした
では、この2,049件はどこから来たのか。畳む話をする前に、内訳を数えてみました。土台として最初から入っている共通の単価が198件。そこへ、1,800件を超える分が過去の見積書から自動で溜まりました。物価の資料を読み込んで入れた分は、0件です(いずれも自社データベースの実測)。
取り込む機能そのものは作ってあります。ただ、そこに決めごとを一つ置きました。実績から学習した単価は、資料の側で上書きしない。 会社が実際にその値段で出してきた単価のほうが、参照値より信じられるからです。結果として、資料を取り込んで単価表を更新する作業は、いまのところ一度も発生していません。
順番としては、土台の198件があるところから使い始めて、その上に自社の分が積み上がっていきました。自社の単価表を先に完成させてから、というやり方ではありません。増えた分は、ほとんどが過去の見積書から来ています。
ただ、溜まれば済むという話でもありません。ひとつ前に書いたとおり、古いまま残る単価のほうは増えていきます。手が要るのは入れるほうではなく、畳むほうでした。
工程の側でも同じことをしています。教科書の歩掛ではなく、うちが実際にかけている日数を溜める。考え方は単価表と同じです。
止まる場所は、毎回だいたい同じでした
図面に描かれているものは、かなりのところまで拾えます。描かれていないものは拾えません。どこまで出来るかの境目は、実務ではここに引かれていました。
ここまでに読ませた図面は122枚、過去の見積は140本で、見積の行は15,000行を超えました(自社データベースの実測)。それだけ回しても、機械が止まる場所は現場が変わってもほとんど動きませんでした。
- 図面に描かれていないもの——仮設、養生、運搬、片付け。線がないので拾いようがありません
- 現場の条件で決まるもの——搬入経路、作業時間帯、階数による手間の増え方
- 同じ名前で中身が違うもの——同じ「壁下地組」でも高さ違いで単価が分かれる。名前だけ見ていると一つに潰れます
- 利益と勝負どころ——これは最初から人の仕事として置いています
止まる場所が毎回同じだと分かってから、気持ちが楽になりました。そこまでを機械に任せて、その先に人の時間を寄せればいい。全部を自動にしようとしていた頃より、結果として早くなっています。
いちばん効いたのは、拾った場所を指させることでした
意外だったのがここです。
数量が出るだけでは、担当者は使ってくれませんでした。合っているかどうかを確かめる手間が、自分で拾うのと変わらないからでしょう。
変わったのは、どこを拾ったのかを図面の上に描いて出すようにしてからです。この数字はこの範囲を測ったものです、と図で示す。すると担当者は、全部を見直すのではなく、怪しいところだけを見にいけるようになりました。
作るのに一番苦労したのもここでした。頁数の多い図面では、描画の途中で処理が落ちる。重い頁を先に外す仕組みを入れたら、今度は外しすぎて全頁を描きにいってまた落ちる。それでも諦めなくてよかった。
積算AIの値打ちは、自動で埋まった割合ではなく、人が指させる形で出てくるかどうか——今のところ、これがいちばん実感に近い言い方なんです。
「まず無料で試したい」という方へ
無料か有料かより先に、自社の図面と過去の見積を見てください。順番としてはこうです。
- 手元の図面を一枚選んで、どのソフトで、どういう描き方をされているかを確かめる
- 過去の見積を三件、同じ並びに揃えてみる
- その三件で「毎回入っている項目」を書き出す
三番目まで来ると、道具を入れる前に分かることがけっこうあるはずです。毎回入っている項目が言葉にできていれば、それはもう半分は仕組み。 ここが人の頭の中にしかない状態では、どの製品を入れても同じところで止まります。
いただくことの多い質問
Q. 図面さえあれば、拾いは全部お任せできますか。
図面に描かれているものは、かなり拾えるようになりました。ただし描かれていないもの——仮設や運搬、現場条件で動くもの——は出てきません。「図面に描いてあるかどうか」が、そのまま境目になります。
Q. どのくらいの規模の会社から意味がありますか。
台数や人数より、過去の見積が残っているかどうかの方が効きます。十件でも同じ形で残っていれば動き始めますし、百件あっても形がばらばらだと最初の整理に時間がかかります。
Q. 拾った数量をそのまま見積書にしていますか。
していません。最後は担当者が図面に戻って確かめています。機械が出すのは、確かめる範囲を狭めたものだと思っていただくのがちょうどいいです。
埋める率より、指させる形を
積算にAIを使うと聞くと、どうしても「どこまで自動になるか」の話になります。私たちも最初はその数字を追いかけていました。
半年ほどやってみて、追いかける先が変わりました。自動で埋まる範囲は思っているより狭い。しかもその狭さは、現場が変わってもあまり動かない。だったら狭いなりに、どこを拾ったのかを人に見せる方が実務では効いたのです。
拾いを速くしたいというより、確かめる時間を減らしたい。そういう順番で考えると、手を付ける場所が見えてくるんじゃないでしょうか。
このテーマの記事はまとめ:社員とAI、ChatGPTの使い方、AIの担当者に読む順番で並べています。
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AUTHOR
﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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