建設業の情報共有システムが続かない理由——人が何となく埋めていた四つの隙間
情報共有の道具を入れて、三か月で元に戻った——という話を、建設会社ではよく聞きます。
グループウェア、チャット、掲示板、現場管理のアプリ。最初の二週間は投稿があって、そのうち減って、気づけばまたLINEと電話に戻っている。
私たちは土木・建築・設備の三業種をやっている建設会社で、この半年ほど、社内で使う道具を自分たちで作りながら回しています。戻ってしまう理由を考えていて、一つ思い当たったことがありました。その道具が、何を埋めるものなのかが決まっていないんです。
建設会社の連絡は、四つの形で回っています
いまの会社を見渡すと、情報のやり取りはだいたい四つに分かれます。
- 口頭で確認するもの——「明日、あの資材って届いたっけ」
- Excelでまとめるもの——出面、原価、工程の一覧
- LINEや電話で何とかしているもの——現場からの報告、急な変更
- 経験のある人がその場で判断しているもの——この納まりならこうする、という判断
面白いのは、この四つは誰も設計していないということです。誰かが決めたのではなく、そのときそのときで都合のいい形が残ってきた。だから会社ごとに少しずつ違いますし、担当者が変わると形も変わります。
言い換えると、人が何となく埋めてきた部分です。ここに道具を入れようとするから、話がややこしくなります。
「情報共有システムを入れる」が曖昧なわけ
四つを一枚の絵にすると、なぜ入れても戻るのかが見えてきます。
道具はたいてい、四つのうちのどれか一つか二つに効きます。チャットは三番目に強い。掲示板は一番目の一部を置き換えられる。表計算の置き換えは二番目。四番目は、そもそも道具の話ではありません。
ところが導入するときは、「情報共有をよくしよう」という大きさで決めてしまうことが多い。すると、こうなります。
現場は今までどおりLINEで送る。事務は新しい道具に転記する。二重になった分だけ、誰かの手間が増える。 そして増えた側から先に使わなくなります。
戻った理由が「現場が使ってくれないから」に見えるのですが、実際は入口が二つあることを許してしまったからでした。
どれを埋める道具なのかを、先に決める
ですので、順番としてはこうなります。
- 四つのうち、どれがいちばん痛いかを決める——全部を一度に触らない
- その一つについて、今の入口を閉じる——新しい道具に一本化する
- 残りの三つは、当面そのままにしておく
二番目が肝心なところです。新しい道具を足しただけでは、情報共有は改善しません。 前の道を閉じて初めて、そちらに流れます。
閉じられないなら、その道具はまだ早い。そういう判断もあるでしょう。
うちで最初に閉じたのは、全社連絡でした
自社の話をすると、最初に手を付けたのは一番目の一部——全社への連絡でした。
理由は、抜けた時の痛みがはっきりしていたからです。朝礼で言っても、遅番の人、直行直帰の人、休みの人には届きません。個別のLINEで送れば届きますが、本人しか見られませんし、あとから見返せない。「聞いていません」が起きるのは、たいていこの隙間でした。
そこで社内の掲示板を用意して、全社連絡はここに載せる、と決めました。 大事なのは道具そのものより、「ここに載っていないものは、全社連絡ではない」と決めたことのほうでした。
一方で、現場からの日々の報告は、いまもLINEで受けています。そちらは入口を増やさない方が続くからです(日報の受け方に書きました)。四つを別々に扱うと、こういう判断ができるようになります。

四番目だけは、性質が違います
「経験のある人がその場で判断しているもの」。これだけは、道具を入れて置き換える話になりません。
ただ、判断そのものは移せなくても、判断に必要な材料は移せます。この現場の過去の写真、似た工事の見積、去年の同じ時期の工程。ベテランが頭の中から引っ張り出しているものを、誰でも引ける場所に置いておく。
図面や過去の記録がどう効くかは別の記事に書きましたが、ここは急がなくていいところだと思っています。一番目から三番目が整理されていない段階で四番目に手を出すと、たいてい重くなりすぎます。
導入の前に、一枚書いてみる
新しい道具を検討されているなら、比較表を作る前に、今の四つを紙に書き出してみることをおすすめします。
- 口頭で確認していることを、思いつく限り
- Excelで回している表の名前を、全部
- LINEで流れているものを、種類ごとに
- 「あの人に聞かないと分からない」ことを、いくつか
書き出すと、たいてい二つ気づきます。思っていたより多いことと、そのうち本当に困っているのは一つか二つだということです。
その一つが決まれば、道具はあとから選べます。逆に、ここが決まらないまま製品を比べても、決め手が出てきません。
一つだけ気をつけたいのは、書き出す人を一人にしないことです。事務が書き出すと事務の視界だけになりますし、現場が書き出せば現場の分だけになります。同じ紙を、現場と事務の両方が書く。 食い違ったところが、たいてい抜けている場所でした。「あれは現場が見ていると思っていた」「事務がやってくれていると思っていた」——この形は、どの会社でも一つや二つ出てきます。
いただくことの多い質問
Q. 全部を一つの道具にまとめたいのですが。
気持ちは分かります。ただ、まとめようとすると、たいていどれにも少しずつ合わない形になります。まず一つ、うまく回してからのほうが結果的に早く着きます。
Q. 現場がLINEから離れません。
離れなくてよい部分もあります。離してよいものだけを決めて、それは閉じる。 全部を移そうとすると、まず失敗します。
Q. 社員が使ってくれるか不安です。
使われない理由は、たいてい抵抗ではなく土台の側にありました。ここは以前まとめた記事をご覧ください。
何となく埋めていた部分が、仕組みに変わる
情報共有の話は、道具の比較として語られがちです。ただ、実際に変わるのは道具ではなく、今まで人が何となく埋めていた部分が、少しずつ仕組みに置き換わっていくことのほうでした。
一度に全部は変わりません。四つのうち一つが仕組みになれば、その分だけ誰かの頭の負担が減る。それを何回か繰り返した先に、会社の動き方が変わっている——という順番なのだろうと思います。
まずは、いちばん痛いものを一つ選ぶ。そこからで十分ではないでしょうか。
このテーマの記事はまとめ:建設業の日報・勤怠・現場の情報に読む順番で並べています。
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AUTHOR
﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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