ダッシュボードを作っていたつもりが、「担当者」を作っていた——AIの組織図は、システムではなく仕事の分け方で決まる
「今、グループ全体で預金はいくらあるのか」
そう聞かれて、すぐに答えられませんでした。数字はあります。各社のエクセルを開けば分かります。ただ、開かないと分からない、という状態でした。
それで作ったのは財務のダッシュボードのはずだったのですが、できあがってみると、作っていたのはダッシュボードではありませんでした。
私たちは建設会社で、2026年1月から約半年で社内のAIツールを8本作って動かしています。毎朝の資金の報告に「0」が出た話は、見せ方の話でした。今回はその手前、そもそも何を作っていたのか、に気づいた話です。
欲しかったのは画面ではなく、報告してくれる人だった
最初は、素直にダッシュボードを作っていました。Dropboxにある各社のエクセルとつないで、預金と借入をまとめて一つの画面に出す。毎朝LINEに報告が来るようにして、LINEで残高を聞けば答えるようにもしました。
使っているうちに、少し違うことに気づきました。見たかったのは画面ではなかったんです。欲しかったのは、毎朝、各社の数字を見て、グループ全体の資金の状況を報告してくれる人でした。
そう考えると、決めることが変わります。画面をどう並べるかではなく、何を見るのか、何時に見るのか、昨日と比べて何が変わったら知らせるのか、質問されたらどこまで調べて答えるのか。
システムを作っていたつもりが、実際には「仕事」を作っていたわけです。

日報を作ったときも、同じことが起きていた
一本目に作った日報・勤怠の仕組みでも、同じことがありました。
最初は、使っていた勤怠のクラウドサービスの代わりを、LINEで作れないか、というところから始まりました。それが子会社でも使われるようになると、位置情報も欲しい、工数表にもつないでほしい、請求にも使いたい、外注の支払いにもつなげたい、という話が出てきます。
現場から上がってきた一つの情報が、勤怠になり、工数になり、請求になり、支払いにつながっていく。そうなると、「日報を入力するアプリ」より、**「現場から来た情報を受け取って、会社の次の仕事に渡す担当」**と考えた方が、何を作ればいいかがはっきりします。
8本とも、この形でした。作り始めるときは道具の名前で呼んでいて、使い始めると、担当の名前で呼ぶ方がしっくりくる。小さい担当を持たせた話で書いたのはこの感覚ですが、今回はその先に、もう一段あると思っています。
「うちの会社を分析して」と頼んでしまう理由
人を採用するときは、誰もこんな頼み方はしません。「あなたは優秀そうだから、会社のことを全部いい感じにやっておいて」とは言わない。経理なら経理、営業なら営業。その中でも最初は、この書類を見る、ここを確認する、問題があったら上司に聞く、ここまでは自分で判断していい、と分けます。
ところがAIになると、急に「うちの会社を分析して」「経営を手伝って」「業務を効率化して」と、とんでもなく大きな仕事を頼んでしまう。AIなので何かしら答えは返ってくるのですが、毎回違ったり、話が広がりすぎたりして、結局人間が全部読み直すことになります。
AIが悪いというより、頼み方に無理があります。人に対しては当たり前にやっている「仕事を狭く決める」を、AIに対してだけやっていない。
最近「AIエージェント」という言葉をよく見ますし、私たちもその使い方を試していますが、AI経営参謀、AI営業部長、AIのCFOと名前を付けた途端、すごいものを作らないといけない気になる。中小の建設会社で最初に要るのは、たぶんそれではありません。毎朝、預金と借入を確認する。領収書を見て、足りないものを知らせる。入札情報を見て、自社が参加できそうなものだけ拾う。公開前の記事を読んで、おかしいところを指摘する。一つの仕事を毎日ちゃんとやって、問題があったら人に戻す。それができたら、次の仕事を一つ足す。
これから会社には、AIの組織図ができる
ここまで考えて、少し面白いと思っていることがあります。
会社には組織図があります。社長がいて、部長がいて、担当者がいて、それぞれに役割がある。これからは、その組織図の中に、人間ではない担当者が普通に入ってくるのだと思います。経理の横に、領収書を確認するAI。財務の横に、毎朝資金を確認するAI。営業の横に、見込み案件を探すAI。社長の横に、毎朝会社の数字をまとめるAI。
全部をAIに置き換える、という話ではありません。むしろ逆で、人間が判断するために、その前の仕事をAIが受け持つ形です。
そうなると、会社が考えることは「どのAIを導入するか」ではなくなります。**「会社の仕事を、どう分けるか」**の方が先に来る。組織図に新しい箱を一つ増やすとき、その箱に何を渡すかを決めるのは、AIの性能ではなく、会社の側です。
「いつもの感じで」が通じない相手
人間同士なら、「いつもの感じでやっておいて」で済むことがかなりあります。長く働いている社員なら社長が何を気にするか分かっていますし、現場監督なら、この現場ではどこまで確認すればいいかを経験で知っています。
AIには、その「いつもの感じ」が最初はありません。何を見るのか、何をもって異常とするのか、どこまで自分で判断していいのか、どこから人に聞くのか。これを決めないと、箱は空のままです。
少し面倒なのですが、これは会社にとって悪いことではないと思っています。今まで「あの人しか分からない」「昔からこうやっている」「何となくこの数字を見ている」で回っていた仕事を、説明しないといけなくなるからです。AIを入れるために仕事を整理していたら、実は人間の仕事の方が整理された。これから、そういう会社が増えると思います。
新しい担当者が、たまたま人間ではなかった
AIを会社に入れるというと、新しいシステムを導入する話に聞こえます。私たちは最近、少し違う見方をしています。
会社の仕事を一つ切り出して、新しい担当者に渡す。その担当者が、たまたま人間ではなくAIだった。
ダッシュボードを作っていたつもりで担当者を作っていた、というのは、たぶんこういうことだったのだと思います。AIがどこまで賢くなるかも大事ですが、会社の側から見ると、それ以上に大事なのは、自分たちの仕事を、誰かに渡せる形まで分けられるかどうか。組織図に箱を増やす準備は、AIを選ぶ前に始まっています。
このテーマの記事はまとめ:社員とAI、ChatGPTの使い方、AIの担当者に読む順番で並べています。
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AUTHOR
﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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