「このアプリ、なんか遅い」と言われた話——待ち時間の正体は、思っていた場所にありませんでした
「最近、あれ開くのちょっと遅くないですか」
先日、社内でそう言われました。どのアプリの、どの画面が、どれくらい遅いのか。聞いても、はっきりした答えは返ってきません。「なんとなく」なんですよね。
土木・建築・設備の3業種で、約110名の建設会社をやっています。この半年ほどは社内で使うAIツールを自分たちで作って回していて、遅いと言われたのも、自分たちで作ったアプリでした。
その「なんとなく遅い」を、うちはしばらく放っておきました。今回はその話を書きます。待たされていた理由は、自分たちがずっと見ていた場所とは全然違うところにありました。
「遅い」は、苦情として上がってきません
まず、ここが厄介でした。
エラーが出れば人は言ってきます。「保存できません」「数字が合いません」。これは分かりやすい。すぐ直します。
でも「遅い」は違うんですよね。壊れてはいないので、みんな黙って待ちます。待って、使えて、終わり。わざわざ経営側に言うほどのことでもない。
そのかわり、じわじわと別の形で出ます。開く回数が減っていくんです。
「あとでまとめて入力しよう」「これは紙のままでいいや」。そういう小さい判断が積み重なって、気がつくと使われなくなっている。社員がAIを使わない理由を以前書きましたが、あそこに書かなかった原因がもう一つあったなと、今回思いました。単純に、待たされるのが嫌なんです。
測るために、3つだけ聞くようにした
「なんとなく遅い」のままでは直せないので、聞き方を変えました。聞くのはこの3つです。
- いつ(朝いちばんか、日中か)
- どの画面(一覧か、詳細か、集計か)
- 何回目(開いた最初の1回か、2回目以降もか)
これだけで、原因の当たりがかなり付きます。実際、うちで出てきた答えは「朝いちばんの、最初の1回」でした。日中に何度も開いている人からは、そもそも遅いという声が出ていなかったんです。
ここで初めて、これは画面の作りの問題ではないかもしれない、と気づきました。
正体その一:置き場所が、海の向こうでした
もう一つ、別のアプリを点検していたときに見つかったことがあります。
うちのアプリは、データをしまっておく場所と、そのデータを取り出して画面を組み立てる場所が別々にあります。前者は東京に置いていました。ところが後者、つまり処理をする側が、海外の拠点で動いていたんです。
つまり、画面を1つ出すたびに、質問と答えが太平洋を往復していたことになります。
現場で言えば、資材置き場が県外にある、みたいな話です。1本取りに行くだけなら気になりませんが、1日に何十回も往復していたら、それは1日が終わります。
正直に白状すると、これは誰かがそう決めたわけではなく、初めて作ったときの初期設定のままだったというだけの話でした。動いていたので、誰も疑わなかったんですね。
見つけたあとは、社内で動かしているアプリを全部確認して、まとめて東京側に寄せました。前に鍵の穴を1つ見つけたときも同じことをやりましたが、こういうものは1つ出てきたら、たいてい他にもあります。
正体その二:しばらく誰も使わないと、アプリは寝ます
もう一つが、朝いちばんだけ遅い理由です。
いまどきのアプリは、誰も使っていない時間は待機状態になります。電気を食わないので合理的なのですが、そのぶん、久しぶりに開かれたときは起き上がるところから始まります。
うちの場合、最初の1回だけ1秒ちょっとかかっていました。2回目からは0.2秒くらい。数字にすると1秒の差です。
たった1秒、と思われるかもしれません。私も最初はそう思いました。
でも、よく考えると朝いちばんにそのアプリを開くのは、たいてい決まった人なんですよね。うちの場合は私でした。つまり、毎朝いちばん遅い状態に当たり続けていたのは経営側で、日中に何度も開く事務の人は、ずっと速い状態しか見ていなかった。同じアプリの評判が人によって違ったのは、これが理由でした。
対策は単純で、少し前に軽く起こしておくようにしました。数分おきに、アプリを1回つついておくだけです。これで朝いちばんの人も、2回目以降と同じ速さで開けるようになりました。
1秒を、どう見るか
ここは経営の話として書いておきたいところです。
待ち時間を「1秒×回数」で足し算して、年間何時間、と計算することもできます。時間を金額に直す考え方は以前書きました。
ただ、今回に関して言えば、その計算はあまり本質ではない気がしています。
1秒が効くのは、時間としてではなく、使うのをやめる方向への一押しとしてなんですよね。特に現場です。現場でスマホから開くと、そもそも電波が万全ではありません。そこに立ち上がりの遅さが乗ると、体感は1秒では済みません。数秒待たされたら、たいていの人は「あとでいいや」になります。
道具が使われなくなる理由は、機能が足りないからだと思われがちですが、実際には開くのが億劫になるからというのがかなりの割合を占めている気がします。

直したあと、何も言われなくなりました
一番おかしかったのは、直したあとです。
「速くなりましたね」とは、誰も言いません。遅いという声が止まっただけです。
これは運用の仕事全般に言えることで、うまくいっているときほど何も起きないんですよね。何も起きないのを維持するのが仕事、というのは建設業の方には分かってもらいやすい感覚だと思います。事故が起きない現場が、いい現場ですから。
既製のツールを選ぶときも、ひとつだけ聞けます
自社で作っていない場合は関係のない話かというと、そうでもありません。既製のツールを検討している段階で、ひとつだけ聞いてみてください。
「朝いちばんに開くと遅い、ということはありますか」
言葉のとおり、そのまま聞いて大丈夫です。答えられない相手が悪いという話ではないのですが、ここをちゃんと考えている会社は、たいてい即答します。「うちはこうしています」まで返ってくることもあります。逆に、話が機能の説明にすり替わっていくようなら、作ったあとのことをあまり見ていないのかもしれません。
売っている側と話すとき、機能の話は向こうが得意な土俵です。こちらから振れる話題として、使い心地の質問はひとつ持っておくと便利だと思います。
よくある質問
Q. 社内のアプリが遅いのですが、何から調べればいいですか?
A. まず「いつ・どの画面・何回目か」を聞き取るところからです。開いた最初の1回だけ遅いなら立ち上がりの問題、いつ開いても同じくらい遅いなら作りか置き場所の問題、人が多い時間だけ遅いなら混み具合の問題、と当たりが付きます。ここを分けずに「遅いので速くしてください」と頼むと、たいてい話が進みません。
Q. 速さのために、お金をかける価値はありますか?
A. うちの場合、今回の対応でかかった費用はほとんどありませんでした。置き場所を寄せるのも、少し前に起こしておくのも、設定の話だからです。もちろん作り直しが必要な遅さもありますが、最初に疑うべきは設定で、作り直しはそのあとだと思います。順番を逆にすると、高くつきます。
Q. 「遅い」と言われないのですが、それは問題がないということですか?
A. 残念ながら、そうとも限りません。遅さは苦情になりにくいので、黙って使われなくなっている可能性があります。開かれた回数が月ごとに減っていないか、たまに見てみると分かります。うちも、声より先に数字の方に出ていました。
このテーマの記事はまとめ:建設会社のAIとセキュリティに読む順番で並べています。
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AUTHOR
﨑元 理安(ARCFEELGROUP株式会社 代表取締役)
土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)の社長として、自社でのAIツール8本の内製を主導。 評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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