2026年7月15日
建設業の人手不足は、採用だけではたぶん解決しない
求人を出しても、なかなか来ない。
紹介会社に頼んでも、なかなか来ない。
たまに来ても、続かない。
建設業の経営者どうしで話していると、最後はだいたいこの話になります。
私たちも例外ではありません。
土木・建築・設備の3業種で、約110名の建設会社を20年以上経営してきました。
この1年は、Claude Code や AI を使って、社内向けの仕組みを内製してきて、いま8本が動いています。
それで、人手不足は解消したのか。
正直に言うと、していません。
ただ、この問題を長く見ているうちに、考え方は少し変わりました。
「人手不足をどう解消するか」だけで考えるより、
「人手不足が続く前提で、どう会社を回すか」
を考えた方が現実的なのではないか。
最近は、そんなふうに感じています。
人が戻ってくる前提では考えにくくなっている
以前、建設業の就業者数や年齢構成を調べたことがあります。
正直、少し重い数字でした。
建設業で働く人は、一番多かった1997年頃には約685万人。
それが2022年には約479万人まで減っています。
四半世紀で、約3割減っています。
年齢構成もかなり厳しいです。
55歳以上が約37%。
29歳以下は約12%。
60歳以上の技能者もかなり多く、この方々の多くは、今後10年ほどで引退していきます。
景気が良くなれば、また人が戻ってくる。
そういう種類の話ではなさそうです。
働く人の数そのものが減っている。
若い人も十分には入ってきていない。
そこに、2024年からは建設業にも時間外労働の上限規制が入りました。
今までは、足りない人数を、いる人の残業でなんとか埋めていた部分もありました。
正直、うちもそういう面はありました。
でも、そのやり方も以前のようには使えません。
人は減る。
残業では埋めにくい。
でも仕事はなくならない。
この3つが同時に来ているのが、今の建設業なのだと思います。
だから最近は、人手不足を「いつか解消するもの」として考えるより、
「解消しない前提で、どう成立させるか」
を考えるようになりました。
あきらめたというより、その方が現実に合っている感じがあります。
「人が足りない」の中身は、実は3つに分かれる
社内で「人が足りない」と言っている場面をよく見ていくと、実は3つの話が混ざっていました。
1つ目は、入ってこないことです。
求人を出しても応募が少ない。
紹介会社に頼んでも、なかなか合う人が来ない。
これは、一社の努力だけでは動かせる幅がかなり限られます。
働く人の数そのものが減っているからです。
2つ目は、辞めていくことです。
せっかく入った人が、数年で離れてしまう。
これは会社の中の問題でもあるので、まだ動かせる余地があります。
3つ目は、今いる人を活かしきれていないことです。
日報の清書。
写真の整理。
書類への転記。
数字の突き合わせ。
何度も同じ確認をすること。
こういう仕事に、いまいる人の時間がかなり使われている。
うちで一番大きくて、一番手つかずだったのは、この3つ目でした。
そして振り返ると、世の中の「人手不足対策」は、どうしても1つ目の採用に寄りがちです。
求人媒体を増やす。
紹介会社に依頼する。
採用広告を強くする。
それでも来ないと悩む。
もちろん採用は大事です。
ただ、一番動かしにくいところに、お金と気力の多くを使っていたのかもしれない。
これは、自分たちにもかなり当てはまります。
求人で探していた人は、社内に埋まっていた
たとえば、現場監督の夕方を考えてみます。
現場が終わって、事務所に戻る。
今日の日報を整理する。
写真を確認する。
報告書に転記する。
明日の準備もする。
それに毎日2時間かかっているとします。
監督が10人いれば、1日20時間です。
8時間で割ると、2.5人分です。
つまり、求人で探していた2.5人分の時間が、社内の中に埋まっている可能性があります。
これは少し大げさに聞こえるかもしれません。
でも、日報、写真、書類、転記、確認の時間を積み上げると、かなり大きくなります。
私たちがAIやClaude Codeを使って、社内向けの仕組みを作ってきた理由も、突き詰めるとここです。
AIが人の代わりに全部働いてくれる、というより、
人の時間を取り返してくれる。
実際に使ってみての感覚は、こちらに近いです。
日報をLINEで送れば記録される。
確認するものだけ管理側に出てくる。
数字が毎朝まとまって見える。
書類や情報を探す手間が減る。
どれも派手ではありません。
でも、書き写す仕事や探す仕事が減ると、人の時間が少し戻ってきます。
人が残る会社にする、という順番
人手不足の話をしていると、どうしても採用に目が向きます。
でも最近は、順番が少し違うのかもしれないと思っています。
採用する。
人が増える。
会社がラクになる。
ではなく、
いまいる人の時間を取り返す。
雑務を少し減らす。
働き方が少しマシになる。
人が残りやすくなる。
その結果、採用でも選ばれやすくなる。
こちらの順番です。
若い人が辞める理由も、給与だけではないと感じます。
「雑務ばかりで、成長している感じがしない」
「毎日遅くまで書類仕事をしている」
「現場の仕事より、後処理に時間を取られている」
こういう声は、かなり重いです。
もちろん給与は大事です。
ただ、それだけではありません。
雑務が減り、現場や技術に時間を使える会社は、同じ給与でも選ばれ方が変わる可能性があります。
人が採れないから省力化する。
それもあります。
でも、それ以上に、
省力化された会社だから人が残る。
人が残る会社だから、たまに採れる。
この順番の方が、今の建設業には合っている気がしています。
自分たちに向けてきた3つの問い
では、どこから手をつければいいのか。
私たちが自分たちに向けて考えてきた問いは、主に3つです。
1つ目は、社員が「書き写す仕事」に使っている時間を、金額で言えるか。
最初は言えませんでした。
でも測ってみると、1人1日30分の転記でも、人数が増えると年間ではかなり大きな時間になります。
感覚ではなく、時間と金額にしてみると、急に見え方が変わります。
2つ目は、直近で辞めた人の理由を、本人の言葉で説明できるか。
「一身上の都合」で片付けていると、何も見えません。
本当はどこが重かったのか。
何に疲れていたのか。
どこに成長感がなかったのか。
ここを見ないと、また同じことが起きます。
3つ目は、求人費と、社内の雑務を減らす投資に、それぞれいくら使っているか。
求人にはお金を使っている。
でも、いまいる人の時間を取り返すことには、ほとんど使っていない。
この状態は、意外と多いのではないかと思います。
人手不足の話は、「大変だ」「きつい」という感覚の言葉になりやすいです。
でも、感覚のままだと打ち手が選びにくい。
数字にしてみると、どこから手をつけるかは少し見えやすくなります。
ベテランが引退する時、一緒に消えるもの
もう1つ、人手不足で大きいのは、人数だけではないと思っています。
会社の記憶が消えていくことです。
うちにも、
「あの納まりは、あの人に聞けば分かる」
「あの発注者の癖は、あの人が知っている」
「あの現場の段取りは、あの人が一番分かっている」
というベテランがいます。
こういう人たちの頭の中には、図面やマニュアルには出てこない知恵が入っています。
納まりの感覚。
段取りの勘。
発注者ごとの癖。
現場で揉めやすいポイント。
過去の失敗。
これが、引退と一緒に消えていく。
これは単に人が減る話ではなく、会社の記憶が減る話です。
人数は、運が良ければ求人で補えるかもしれません。
でも、記憶は求人では戻ってきません。
だから、人手不足対策には、時間を取り返すことと並んで、もう1つ大事なことがあると思っています。
ベテランが現役のうちに、その知恵を会社に残しておくことです。
過去の図面。
写真。
見積。
現場の記録。
判断の履歴。
こういうものを、あとから探せるようにしておく。
AIを使う意味は、ここにもあると思っています。
(詳しくは図面は「会社の記憶」に書きました)
何から始めるか
人手不足の対策としてAIや仕組み化を考えるなら、いきなり大きなことをやらなくていいと思っています。
順番としては、これくらいです。
まず、一番時間が溶けている定型業務を1つだけ選ぶ。
日報。
写真整理。
請求まわり。
経費精算。
書類作成。
数字の確認。
この中のどれか1つでいいです。
次に、その1つだけを少し軽くする。
全部を一気に変えない。
全社改革にしない。
まず1つだけ。
(進め方は中小建設業のDX、何から始める?にまとめてあります)
そして、浮いた時間を数字で確かめる。
何分減ったのか。
誰の確認が減ったのか。
月末の負担がどれくらい軽くなったのか。
ここまで見えれば、次の1つに進めます。
(社員への定着のさせ方は社員がAIを使わない本当の理由をどうぞ)
道具は、ChatGPTのような汎用AIでもいい。
既製のアプリでもいい。
自社で少し作ってもいい。
大事なのは、採用の前に、いまいる人の時間を取り返すことです。
採用をあきらめる話ではない
ここは誤解されやすいので、少し書いておきます。
採用をやめた方がいい、という話ではありません。
採用は必要です。
若い人も必要です。
新しい人も必要です。
ただ、順番が大事だと思っています。
会社の中に雑務が多く残ったまま、人を採る。
入った人が、毎日遅くまで書類仕事をする。
成長している感じがしない。
数年で辞める。
この流れになると、採用費が定着しない人に消えていきます。
かなり高くつきます。
逆に、先にいまいる人の時間を取り返しておく。
日報はスマホで送るだけ。
書類仕事は少ない。
過去の資料や図面は探しやすい。
先輩の知識も会社に残っている。
こういう会社になっていれば、求人票にも具体的に書けます。
「アットホームな職場です」より、ずっと伝わるはずです。
活かす。
残る。
採れる。
たぶん、この順番です。
よくある質問
Q. 職人の技能者不足は、AIではどうにもならないのでは?
その通りだと思います。
型枠を組む手、溶接する手、仕上げる手は、AIには代われません。
だからこそ、その貴重な時間が書類仕事や転記に取られている状態がもったいない。
技能者の時間を技能に集中させることは、実質的に人手不足対策になると思っています。
Q. 30人くらいの会社でも意味がありますか?
むしろ、規模が小さい会社ほど効く部分もあると思います。
人数が少ない会社では、1人の時間の重みが大きいからです。
30人の会社で、数人分の時間が雑務に溶けているとしたら、割合としてはかなり大きい。
しかも、小さい会社ほど、変える決断は早くできます。
Q. 忙しすぎて、改善に割く時間がありません。
一番よく聞く言葉です。
そして、一番の悪循環だと思います。
忙しさの原因の一部が雑務なのに、忙しいから雑務を直せない。
だからこそ、全部ではなく1つだけでいいと思っています。
日報だけ。
写真だけ。
請求だけ。
1つ直すと、少し時間が生まれます。
その時間で、次を直せます。
最後に
人手不足は、たぶん簡単には解消しません。
求人を増やせば解決する、という話でもなさそうです。
でも、人手不足のままで成り立つ会社を作ることはできるかもしれません。
この1年、AIやClaude Codeを使って社内の仕組みを触りながら、少しずつそう感じるようになりました。
答えは求人広告の中だけにあるのではなく、
社員の1日の時間の使い方の中にもある。
まずは、監督さんの定時後の2時間に何が入っているのか。
事務の人が月末に何をまとめ直しているのか。
ベテランの頭の中にしかないことは何か。
そこを見るところからで十分だと思います。
人を採る前に、いまいる人の時間を取り返す。
建設業の人手不足対策は、そこから始める方が現実的なのかもしれません。
※就業者数・年齢構成の数字は、総務省「労働力調査」および国土交通省の建設業関連資料によります。
AUTHOR
ARCFEELGROUP株式会社
ARCFEELGROUP株式会社。土木・建築・設備の建設グループ(110名・3業種)で、 建設業のIT/DXとAI活用ツールの内製を担っています。評論ではなく、当事者としての実装記録を書いています。
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